覚えてたかった
色葉充音
覚えてたかった
かなしくてあたたかい。そんな夢を見た。
何気ない日常の光景に感極まって涙が出た。
どうして苦しいの。どうして辛いの。
ひたすらに泣きたい日常という名の非日常を振り返る。
どうしようもなかった。
泣かずにはいられなかった。
あの時の泣きたいを思い出したかのように、涙は止まってくれない。
堰を切ったかのようにぼろぼろとあふれてくる。
何が悲しいのかなんて分からない。分かったらきっと泣いていない。
乾いた心に突然水があふれて、どうすればいいのか分からない。
ぼろぼろ、ぼろぼろ。
何かが壊れていく。
ぽろぽろ、ぽろぽろ。
何かがあふれていく。
きみは全て失ってから大切なものに気づいた。
でも、何を失ったかは全然分からなくて、意味が分からないまま感情があふれる。
何があったのかは分かるはずもなくて、怖いほどに涙があふれる。
ねぇ、泣いていい。
ねぇ、笑いたいよ。
きみと一緒に、ねぇ。
ねぇ、苦しいね。
ねぇ、辛いね。
きみを全て解りたい。
欠けたピースは見つからなくて、欠けた思い出は戻らない。
どうして覚えてないんだろうね。
そんなに辛かったのかな。
渦に巻かれて、涙とともに洗い流してしまうほど、苦しかったのかな。
ねぇ、ねぇ、ねぇ。
この感情だけ残して、忘れちゃったの?
それってもっと苦しいよ。
今泣いている理由も分からない。
今辛い理由も分からない。
今悲しい理由も分からない。
何なの。何に動かされてるの。
あの時の幸せさえも覚えていない、そんなきみが憎らしい。
ぼろぼろ、ぼろぼろ。
きみはどんな風に笑ってたっけ。
ぽろぽろ、ぽろぽろ。
きみはあの時笑えていたっけ。
ぼろぼろ、ぼろぼろ。
ぽろぽろ、ぽろぽろ。
微睡む世界で、失ったものに涙を流す。
この感情さえも流してしまいそうな勢いで、勝手に涙があふれ出る。
それは嫌だから、今度こそは忘れたくないから。
ただ、笑い合って食事をしただけの日常の夢に、涙を流した朝を覚えていたい。
本当はね、覚えてたかったんだよ。
きみがどんなに苦しくて辛かったのかも、今はもう忘れてしまったけど、同時に幸せだってあったはずだから。
私はどうして忘れちゃったんだろうね……。
覚えてたかった 色葉充音 @mitohano
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます