第2話 神崎慎太郎、モテへの道
「なあ、なぜ俺はモテないと思う」
ある日の講義を終わりのタイミング。早々と教場を立ち去ろうとする学生たちに逆らって、俺はとある男を引き留めて相談をしていた。
「どうしたんだよ藪から棒に」
「良いからいいから。どうせこの後予定無いだろ?」
「いやまあ、そうだけど……」
いかにも渋々と言った感じで俺の前の席に座ったこの男の名前は桜木湊、大学に入ってからの俺の親友。身長も高く爽やかな雰囲気に、どこぞの美容院で当ててもらったらしいパーマが良く似合う。
まあ、端的に言うとモテる。俺の数十倍くらいモテるのだ。
「今まではお前みたいなモテ野郎には男のプライドにかけて絶対頼らないと決めていたが話が変わった」
「なにがあったんだよ」
「端的に言うと、フラれた」
「清々しいほどまっすぐな目で濁ったセリフを吐くね……」
正一は呆れているが、俺はいたって真剣だ。
「だって悩んでたってしょうがないだろ?フラれたなら何がダメだったのか反省してちゃんと次に生かさなきゃ」
「マインドは十分立派なんだけどな……っていうか、慎太郎はそこまでモテない訳じゃないと思うけどな」
「はぁ?俺がモテる?お前冗談は休み休み言えよ」
「それ、言ってて悲しくならない?」
「はっ、あんま舐めんじゃねえぞ」
ちなみにめっちゃ苦しい。めっちゃ古傷が疼いてくる感じ、『致死武器』でも食らってんのか。
だがこのイケメンにそんな弱みを見せたくはない。俺がまっすぐな目で見つめると、正一は小さく息を吐いた。
「慎太郎は彼女彼女って言うけどさ、あの子はどうなのよ」
「あの子?」
「ほら、いつも一緒にご飯食べてる子。紫雲さんだっけ」
「え、紅葉ぁ?」
「そうそう、仲良さそうじゃん」
何も知らない様子で小さく頷く正一に、俺はおもわずため息をつく。
「あのなあ、アイツは幼馴染だぞ?こんなちっちゃい頃からずっと一緒にいたんだよ。恋愛感情とかそういうのは一切無いの」
「ほーん」
「何だよその態度は」
「いや、お前がそうでも向こうはそうじゃ無いかもしれないぞ?」
考えても見なかった、紅葉の気持ち。
じっとこちらを見つめる真一に対して、俺は思わず……
「お前っ、馬鹿言ってんじゃねえよホントに~(笑)」
思わず爆笑してしまっていた。
「さっきも言ったけどアイツはただの幼馴染。小中高一緒にいたけどいい雰囲気になったことなんて一度もないし今後もなる予定はないの」
「あ、そう……」
「そう。だから俺としてはアイツ以外で誰か良い女の子紹介して欲しいの!」
全く、紅葉とだなんて絶対にありえない。天地がひっくり返っても無いと断言できる。
俺があまりに笑うもんだからか、正一は少し引きつった笑みを浮かべているが……やがて観念したようにため息をついた。
「分かったよ、それじゃあ良いの教えてやるよ」
「お、マジで?何部の子?可愛い系?」
「人を紹介するんじゃなくて」
そう言って正一はおもむろにスマホの画面をこちらに見せてくる。
そこにはスカイブルーと白で構成された画面が浮かんでいた。
「これ……」
「そう、アプリ。慎太郎もこれ使ってみたら?」
湊が見せてきたのは俺もCMで見たことがあるマッチングアプリだった。
ひらひらとスマホの画面を揺らしてくる親友に、俺はため息を吐く。
「ええ……」
「何だよ不満か?今どき皆使ってるぜ?」
「いや、それは知ってるんだけどさ……何となく、抵抗があるっていうか」
流石の俺もアプリが悪いなどとは一切思わない、ただ、直接会ったり、相手の素性を知らないのに一足飛びに出会うことに、抵抗を覚えていた。
「恋愛ってのはもっとこう、出会いの段階から一歩ずつ距離感を詰めて言ったりするのが楽しいのであって……」
「その結果が全戦全敗のくせに?」
「ぐっ」
そこを突かれると痛い……
目を逸らす俺に、湊はスススとスマホを差し出してくる。
「いい加減素直になろうぜ?強がってても相手がいないならしょうがないだろ?少なくとも学内じゃ彼女作れそうにないんだし、外に目を向けろよ」
「いや、まだ彼女が出来ないと決まったわけでは……」
「言い訳無用~」
そういうと、湊はいつの間にか俺の手元からスマホを取ってしまっていた。うっかり画面をつけっぱなしにしていたから、そのまま慣れた手つきで操作されていく。
「ほい、一通り入れてやったぞ」
一通り触ってからこちらに放ってくる湊。スマホの画面を確認すると、なんだかカッコよさげな俺のプロフィールが完成した。
名前は俺の慎太郎からもじったのだろう。
「どうだ、中々よく出来てるだろ?」
「……俺、そんなに旅行とか行かないんだけど」
「いいんだよそういうのは、女子ウケ良さそうな趣味にした方がいいから」
ちなみに俺はゴリゴリにインドア派だ。趣味は読書か映画鑑賞。正直プロフィールに嘘をつくのは気が引けるのだが、ここは先人に従っておくことにする。
「にしてもよくこんな写真見つけてきたな」
「去年の学際の時の写真だ。お前のアルバムにロクな私服写真が無かったから俺のスマホの奴送信した」
「あんまりいい思い出じゃないんだけどな、これ……」
俺のアイコンになっていた写真は、何の気なしに服飾サークルの店に入ったら、面白い事と男子に飢えていた先輩に囲まれて不本意ながらマネキンをさせられたものである。
ちなみにアイコンになっているのはストリート系の格好に伊達メガネをしたもの。傍から見たら俺だって気づかないくらいには雰囲気が違う。
「いいじゃん、白シャツジーパンよりいいと思うぜ?」
「そうか……?」
「そうなの、第一マッチングアプリは真剣に出会う気がありますよーってアピールするのが大事なの。プロフィールすら頑張れない奴に出会いは無い!」
「は、はぁ……」
強いトーンで言い切られて、俺は押し黙る。
考え込む俺を見て、湊は爽やかに笑う。
「まあ、とりあえず色々見てみろよ。もしかしたら運命の出会いとかするかもしれないし」
軽いトーンの彼の言葉に、俺も深く考えることを辞める。
「そうだな!とりあえず気になった子片っ端からハート押すわ!」
「おう、もしデート出来たら報告しろよ!」
「おう、任せとけ!」
男同士二人ケラケラと笑いながら、話題は次へと移っていくのだった……。
だが、この時の俺は思っても見なかった。
まさかこのアプリが、一体俺を誰の元に導いてくれるのかを……。
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アプリで出会った運命の相手が、女友達としか思ってなかった幼馴染だった 尾乃ミノリ @fuminated-4807
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