アプリで出会った運命の相手が、女友達としか思ってなかった幼馴染だった
尾乃ミノリ
第1話 恋人の出来ない幼馴染たち
とある大学のカフェテラス。
講義の空き時間を満喫する学生が各々食事を取ったり談笑する中、俺達の座るテーブルは、少しだけ違った雰囲気を醸し出していた。
「また、ダメだった……」
円形のテーブルの片方に座る俺の名前は神崎慎太郎。ここ、久万里大学の経済学部に通う大学2年生。絶賛彼女募集中。
大学入ったら絶対彼女を作ると意気込んではいたのだが、入学してから一年と少し。
ベッドの上で思い描いていたバラ色の大学生活はどこへやら。知った顔ばかりの面白みに欠ける日常ばかり送っている。
腹が減っては戦も出来ぬと思い注文したラーメンも禄に喉を通らない、麺が伸びていくのを眺めるしかできない。
しかし、俺が絶賛傷心中にも関わらず対面に座る女は、心底面倒くさそうに息をはいた。
「あっそ、どうでもいいけどラーメン伸びるから早く食べれば?」
「どうでもいいとはなんだよお前!」
「だって大学入ってから何回目よ、シンタの失恋話聞かされるの。いい加減聞き飽きた」
俺とテーブルを挟む形でストローでカフェラテを啜る少女の名前は
女子にしては高めの身長に長い手足、大学に入ってから染めた茶髪はさっぱりショートボブにまとめている。
彼女同じ久万里大学の文学部に通う大学2年生で……一応、俺の十数年来の幼馴染である。
親同士が仲が良かった結果俺達は小学校に入る以前からお互いを認識し、一緒に遊ぶ仲だった。
男女の違いこそあれ、お互い喜怒哀楽を共にして、まあ気安い間柄ではあるのだが……逆に気安過ぎてこういう相談をしようと思ってもまともに取り合ってくれないのが玉に瑕。
現に紅葉は明かに俺に興味がなさそうな顔で、スマホをいじっている。
「おい、人の相談を聞かずに何やってるんだよ」
「あ、ああごめんごめん。ちょっと大事な連絡来ててさ」
「おん?友達からか?」
「うん、あー、そうそう」
小さく頷き、紅葉はスマホの画面を俺に向けてくる。
「なんかピザが送料無料なんだって」
「出前アプリじゃねえか!」
俺の失恋話は飯以下かよ。
だが、相変わらずコイツは俺の方を向く気配がない。俺も諦めてラーメンを啜る。
くそっ、ガッツリ伸びてんじゃねえか……
「だから言ったんじゃん、早く食えって」
「既読消化しながらエスパーすんな」
「シンタが分かりやす過ぎるんだよ」
紅葉は視線は合わせないままひらひらとこちらに手を振ってくる。
そんな彼女を見ていると、思わずため息がこぼれる。
「くそっ、マジで可愛いし清純そうでいい子だったんだけどな……」
「そういやさシンタ、アンタが狙ってたのってウチの谷口さんだっけ?」
「そうだよ、だからお前に手伝ってくれって言ったんじゃん」
幼馴染に説明しつつ、俺は谷口さんの事を思い出す。
「いや、谷口さんはホントに可愛かった、清楚っていうか?立ち振る舞いに気品が漂ってたよな。笑う時に軽く口元抑えたりしてさ……」
「あー、思い出に浸ってるところ悪いけどさ」
「何だよ」
俺が美しい思い出に浸る中、紅葉はなんてことないようにその事実を告げた。
「あの子、確か男とっかえひっかえしてるって噂よ」
「……マジ?」
「マジマジ、女子の情報網の正確さ舐めんな」
「うっ、そーん……」
あっけにとられ、思わず箸がぽとりと落ちる。
「お、俺の清純巨乳ちゃんが……」
「シンったら、可哀想にね……」
再びラーメンの加水が始まるのが確定する中、紅葉は失望する俺に笑いかけてくる。その表情は慈愛に満ちており、俺は少しだけ安堵する。
雑とは言え流石に幼馴染、傷心深まる俺に、何か慰めの言葉でも掛けてくれるのだろう……。
「アンタ、ほんっとに女の子見る目が無いわね」
「んだと!?」
おもっくそ煽ってきやがった。しかも満面の笑みで。
「いやぁ、今回こそはまともな女の子引くと思ったら、案の定地雷狙うとはね~」
「んだよ地雷って!少なくとも見た目は清楚だったぞ!」
「本当に清楚な女子大生なんて都市伝説に決まってるでしょ、あれはチョウチンアンコウのランプよ」
「俺はその疑似餌にホイホイかかったと言いたいのか……?」
「Exactly!」
ビシッと指をさす紅葉。英文科仕込みの妙に流暢な発音が余計に腹立つ。
だがまあ実際この幼馴染の言う事もそこまで間違ってはいない。
実際俺が高校時代から好きになる女の子は大体碌な奴じゃない。浮気性だったりn股(nは2以上の自然数)かけてたり、裏の顔がヤバかったり、エトセトラエトセトラ……
「だから今回こそはイケると思ったんだけどな……」
「変に二股されるより良かったでしょ。まあ、アンタは二股以前の問題だったのかもしれないけどね」
「テメェ……!」
あくまで俺を煽るスタンスを変えない幼馴染に歯ぎしりする。コイツ、昔はもっと可愛げがあったのに。どこで道を間違えたんだ一体……!
まだカフェオレを啜っている幼馴染に向かって、俺は鋭い視線を向ける。
「でも、お前だって偉そうなこと言うけどさぁ」
俺だってやられてばっかりじゃいられない。言われた分はきっちり応戦してやる。
「紅葉だって付き合う男全員碌に続かないじゃねえかよ!」
「ぐっ」
明らかに言葉に詰まる紅葉。
ほら、やっぱり効いてる効いてる。
「なんか俺にご高説垂れてくれちゃってるけど、お前だって大概ほとんど男と続いた事ねえじゃねえか」
「い、いや、でも!私はしょっちゅう告白されたりしてるから!」
「でも結局軒並み男からフラれてるんだろ?」
「それはっ……皆私に釣り合わないって諦めてくからで!」
「どうだか、お前のガサツさに愛想つかしてるだけじゃね?」
「うーるっさいわねアンタに何が分かんのよ!」
ダンっと勢いよく机を叩く紅葉。周囲の学生が何事かとこちらをちらりと見てくる。
だが、彼女はそんなのお構いなし。トレイに置いてあった俺の箸を奪い、目にもとまらぬスピードでチャーシューをかすめ取っていった。
「あっ、テメエ!」
咄嗟に止めるも時すでに遅し、紅葉は不満げな目で俺のチャーシューを咀嚼している。
「チャーシューはまあまあ美味しいわね、ここのラーメン」
「お前、俺の唯一の楽しみを……!」
そして俺の目の前に残されたのはぶよぶよに伸びた麺。あとちっちゃいナルト。
「お前、そんなんだから長続きしねえんだよ、見た目は悪くないんだから、もっとこうおしとやかにさ……」
「こんな事アンタにしかしないってーの、ほれ、今度はナルトをよこしなさい」
「これ以上俺から奪う気かよ!」
俺が咄嗟にラーメンをこちらに寄せると、紅葉は箸を持ったままケラケラと笑う。
「あーおっかし、ホント、色んな男子と付き合ったけど、リアクションだけならアンタが一番だわ」
「そりゃどうも、俺は疲れるからさっさと他に遊び相手作ってくれ」
「私だってあんたが彼女作ったら退いてあげるわよ」
こうしたやり取りももう慣れたもの。俺は飯を、紅葉はスマホをいじりながら次の講義までこうしてだべり続けるのであった……。
あーもう!早く彼女欲しいなー!!!
♦
一方その頃、大学構内での別の場所。
慎太郎たちが座るテーブルからは離れた場所で、彼らの事を噂するグループがいた。
「えー、谷ちゃん神崎君に告白されたの?」
「うん……でも断っちゃった」
「そうなの!?神崎君イケメンなのに勿体ない!」
「いや、だって神崎君さ……」
「あれ、お前八雲さんと別れたの!?」
「ああうん、ちょっと色々あってさ……」
「何でだよ!あんな美人と別れるなんて、しかも一か月くらいだろ?」
「いや、だってもう俺耐えられなくて……」
「耐えられない?」
「うん、だって八雲さんさ……」
実は慎太郎、紅葉の二人はかなりモテる。二人とも見た目が良いし、学内でもかなり噂になることが多い。
だが、なぜ彼らに彼氏、彼女が出来ないのか、それは……
「「ずっと幼馴染と一緒にいるんだよ……」」
自分達が何故恋人が出来ないのか、彼らがそれを知るのはまだ先の話である……。
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