おてがみ
枯枝 葉
おてがみ
◇◇◇はる◇◇◇
ママへ
パパが、こわいかおでいいました。
「ママがにゅういんしたんだ。しばらく、おうちにはもどらない。パパとふたりだけど、がんばろうね」
パパのこえが、すこしふるえていました。
びょういんから、さくらは見えますか? がっこうのさくら、とってもきれいだよ。
ぼくはきょう、がっこうでひまわりのたねをまいたよ。めが出るのが、たのしみ。
ぼくは、じぶんでらんどせるをかたづけたよ。だって、ぼくはもう、いちねんせいなんだから。ほんとうはね、ママがいないと、すこしこわいよ。でも、でもね、ママのぶんまで、えがおいっぱいでいるから、あんしんしてね。
きょうは、おそらにおほしさまがいっぱい。ママも見てるかなあ。
はるのかぜが、ママにもとどきますように。
◇◇◇なつ◇◇◇
ママへ
おぼんにママにあえて、とてもうれしかったです。ママのえがお、わすれられません。
がっこうのひまわり、いっぱいさいたよ。みんな、おひさまにむかってわらってる。ママみたいだよ。
ぼくはきょう、シャボンだまをしたよ。にじいろのキラキラが、ママのところまでいくといいな。
パパとよるごはんがおわったあと、いっしょにすいかをたべたよ。タネをとばしたら、まけました。くやしいなあ。
かとりせんこうのにおいが、おうちの中にいっぱいなんだよ。ママのびょういんも、そうなのかなあ。
げんきになったら、いっしょにアイスをたべたり、はなびをしたりしようね。
◇◇◇あき◇◇◇
ママへ
いつも、ぼくのおてがみにへんじをくれて、ありがとう。パパがゆうびんやさんみたいに、とどけてくれてるよ。でも、どうしてかなあ。さいきんのママの字、すこしだけちがうみたい。
びょういんのまどから、あきのくもは見えますか?
ぼくはきょう、どんぐりひろいをしたよ。大きくてまるいのがパパ、ほそくてツルツルしているのがママ。そして、ちっちゃいのがぼくだよ。目と口をかいて、つくえの上にかざっています。みんな、わらってるよ。こんど、ぼくがびょういんにいくとき、もっていくね。
かぜがすこし、つめたくなったね。よるになると、スズムシたちのこえがそとからリーンリーンって、おうちの中にきこえてくるんだよ。パパは、「おうちの中でかってるみたいだね」といって、いつもわらうんだ。おかしいよね。ママとスズムシのこえを、いっしょにききたいな。
◇◇◇ふゆ◇◇◇
ママへ
きょうはね、とてもびっくりしたことをかくね。
いまのぼくんちには、ツリーがありません。だからきのう、まどに「はあっ」て、いきをはいて、くもったガラスにちいさなほしと、ツリーをかきました。
「サンタさん、くるかな……」
そのときパパは、だいどころで、しずかにせなかをむけていました。
あさ、おきたら、ほんとうにびっくりしたよ。ぼくのつくえの上に手ぶくろと、おてがみがあったんだ。
ぼくは、ゆっくり手ぶくろをはめたよ。そしたらね、からだぜんぶが、ぽっと、あたたかくなったんだ。
おてがみには、きれいなママの字。
――ゆうくんは、ひとりじゃないよ。ママは、ずっとそばにいるからね。メリークリスマス……
ママ……ありがとう。
***
「パパー! サンタさんがママからのプレゼント、とどけてくれた!」
「そうか! よかったな、ゆう!」
「うん! ママね、いつもぼくのそばにいてくれるって……」
「そうか、そうか……。じつはね、おほしさまになったママがね、パパにいってたんだ。サンタさんにおねがいしたんだって――ママがつくった手ぶくろとおてがみを、ゆうくんにわたしてくださいって」
きらめくほしぞらを、そっとかくすように、ゆきがしずかに、やさしく、ふりつづいていました。
おてがみ 枯枝 葉 @kareeda-you
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