第6話 丹羽長秀の末裔

「……五郎さん、あんた一体何者なんだ」

 日向は受け取った銃の重みを掌で確かめながら問いかけた。

​ 五郎は雪の付いた窓の外を遠く見つめ、鼻をすすりながら、どこか誇らしげに、それでいて自嘲気味に呟いた。

「……自分、こう見えてもね、先祖を辿れば……丹羽長秀の末裔……なんて言われてやして。……いや、本当ですよ。織田の親分を支えた、あの『米五郎左』の……」

​「丹羽長秀……? 織田信長の重臣の?」

「へぇ。……自分は先祖みたいに器用じゃねぇが、土木と裏工作だけは、血筋が騒ぐんでさぁ。……この新潟港のドックも、元々は俺の一族が戦後、地盤を固めた場所だ。……あそこの船の設計図、全部この頭に入ってやす」

​ 五郎は自分のこめかみを指で叩き、ひどく情けない、だが確信に満ちた笑みを浮かべた。

「日向さん。あんた、正面から行っちゃいけねぇ。……あいつらはあんたを『獲物』として待ってる。……丹羽の末裔として、裏道の作り方を教えてやりやす」

 潜入:鉄の城郭

​ 五郎の先導で、日向は吹雪の港を匍匐前進し、誰も知らない排気ダクトから貨物船の深部へと潜り込んだ。

 船内は外の極寒が嘘のように熱気に満ちていた。巨大なホールの中央、オークションの壇上に立っているのは、あの二階堂だ。

​「さあ、紳士淑女の皆様。今宵の目玉、元刑事・日向隼人の『処刑権』。競り落とすのはどなたかしら?」

​ 二階堂の声がスピーカー越しに冷たく響く。彼女の横には、宇都宮で見たあの携帯型ランチャーを構えた男たちが並んでいる。

 観客席には、日向がかつて逮捕した犯罪者の家族や、九条に人生を狂わされたという被害者たちが、狂気と憎悪を孕んだ目で壇上を凝視していた。

​日向はダクトの隙間から、五郎から渡されたリボルバーのシリンダーを回転させた。

​「……五郎さん、あんたの言う通りだ。ここは城だ。だが、難攻不落じゃない」

​ 日向は五郎から聞いた船の構造的欠陥――「丹羽の知恵」として伝えられた、貨物船の平衡を保つバラストタンクの脆弱性――を突くべく、設置された爆薬の起爆スイッチに指をかけた。

​「二階堂……お前の『調律』、ここで狂わせてやる」

​ 日向が影から飛び出した瞬間、二階堂と目が合った。彼女は驚くふうもなく、二階堂ふみ似の唇をわずかに動かした。

「……遅かったわね、日向さん」

​ その言葉と同時に、船底から地響きのような爆鳴が轟いた。新潟の荒波が、崩壊を始めた「断罪の城」へと流れ込んでくる。

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