第2話盲目の少年と地下室

「おやすみなさい、スメラギ」


 王城の地下、監護では無いが、ベッドくらいしか入らない小さな部屋だ。


 メイドは、彼を部屋まで案内すると、そそくさとその場を離れた。彼女の背中には疲れが見えた。


「ふぅ」


 部屋の外の彼女の溜息が、聞こえてきた。


 部屋に戻る途中に夕食だったが、食事の場所は、王族の部屋でなく、奉公人たちの控室の一室だった。


「今日はこちらになります」


「どこでも構わない。姉さんや兄さんが帰ってきてるんだろう」


「はい、せっかくのご家族の団欒なのに」


「ミズハ、嘘を言う必要は無いよ」


 彼は気にする様子もなく、上手に食事を食べていた。まるで見えているように。


「よく食べる子供だ。見ていて気持ちがいいな。なぜ、同席しないんだ?」


 ティアは、王族の部屋に向かった。大きな笑い声が廊下まで聞こえてくる、


 立派なテーブルを囲み、王族たちは饗宴を楽しんでいた。中心にはスメラギの兄姉たちがいた。


「あのテーブルは、リドリーが作ったやつだったな」


 ティアは昔を懐かしんだ。リドリー一家の楽しい食卓を。


 スメラギの姉たちの会話が聞こえてきた。


「ところであいつは?」 派手な色のドレスを着た女性がいった。


「気持ち悪いから、他に行ってもらったわ。せっかく皆んなが集まるに嫌じゃない」


 鼻筋の通りった気の強そうな背の高い女性が答えた。


「さすがアスカ姉さん。あいつは訳の分からないことを突然言い出すからね」


「ええ、カスミのフィアンセにも失礼なことを言ってたものね。私は、レイラ様の伝記を勉強したの。王族といえ、厳しくする」


「まるで、レイラ様みたい」二人は声を出して笑った。


 それは違う! レイラは、兄弟姉妹を幸せにする為に、嘘つきレイラになり策謀を張り巡らしたのだ。だが、時の流れには勝てず、忸怩たる思いが、彼女の底抜けの明るさに影を差していたことも。


「レイラが、国民の、人族の為に下した苦渋の決断と一緒にするな!」


 きっと、生真面目で愛妻家のリドリーが聞いたら怒り狂うだろうな。そう考えると、笑い出しそうになった。


「怖いな、アスカ姉さんは、もう宰相にでもなるつもりなのか? 俺は地方侯爵にしてくれ。南方の暖かい地方がいいな」


 悪ガキが抜けていない青年が言った。


「ダメよ、トウマ。貴方には、私を守ってもらわないと」


 アスカとかいう女性は、青年の肩に手を置き熱い視線を送った。


「みんな俺を支えてくれよ。頼んだぞ!」


 酒に酔い千鳥足の太った丸顔の男が、椅子に座ると、三人に言った。


「もちろんよ、ミナト兄さん」


「当然だよ! 次期国王」


「はい!」


 だが、誰も本気で言ってる様には見えなかった。


「歳の離れた、馬鹿の四兄弟だな。まともなのは、盲目の少年だけか」


 ティアは、宴会場を後にして、スメラギの部屋に急いだ。

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ティアの旅 織部 @oribe

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