-モア- 未知との遭遇

SB亭moya

ファーストコンタクト

 西暦、二X X X年。

 人類は未知の脅威に脅かされていた。 


 月からやってきた隕石が地球に墜落。その隕石と共に地球に舞い降りたのが、異星人、『モア』である。

 モアは人間に擬態しながら環境に順応し、人間を食う。そして食われた人間はモアになってしまう。


 ある日、偶然人間ドックで検査をした人間が、調べたらモアであったことから、既に人類にモアが紛れていることが発覚した。


 彼らは、地球上の生物とは全く異なる生体のため本来、擬態されても人間の完全な模倣は論理上、不可能とされているため、まあその……擬態されてもバレバレのはずなのだが……どういう理屈なのか人間と、モアが擬態した人間を判別するのは困難とされている……。そういう意味でも、未知との遭遇とも言えた。

 


 我々人類は、月ならびにモアの本格的な調査に乗り出した。



 * * * * *


 俺たち五名のクルーは月面にて、モアのコロニーの一つと思われる空洞を発見し、

 モアのものと思われる排泄物を発見した。

 発見できたのは、それだけであった。


 そして報告のために、我々を乗せたシャトルが地球に向けて戻るタイミングで、艦長が我々クルーを集めたのである……。



 * * * * *


「どうも嫌な予感がするんだ」


 普段、感情を表に出さない艦長が、俺たちの前で額に冷や汗をかいている。



「嫌な予感とは何ですか? 艦長」


 副艦長が、ただならない雰囲気の艦長に聞く。

 俺たちの間で、すでに不穏な空気が流れていた。


「ウン……。というのもな、我々は月面でその……単独行動を取っただろう」


「そうでしょうか? モアの性質上、単独行動は致命的な事故に直結するために一つにまとまって行動するよう、我々は訓練を受けていたはずですが」


「ああ。月面でも訓練通り行動した。結果、モアの襲撃には遭わずに任務を達成できた。しかしな……人間が完全な団体行動など取れないということを、私は月面に着いてから気づいたんだ……」


「というのは?」


「例えば……トイレとか……」


「艦長の言いたいことはわかります。しかし、我々は訓練通り、排泄行動中も他の四名は、ちゃんと個室の前で固まって使用中の人間を待ったじゃありませんか」


「うん。あれは考える余地があるよな。トイレの外に四人も待たせてると思うと、出るものも出ないよ。……そういうことが言いたいわけじゃない。トイレの個室だけではない。例えば……睡眠中はどうだ?

 寝た後では、全員の管理など誰もできないのだよ。他にもきっと『穴』はある。こればかりは仕方ない。モアへの対策など未だわからんのだ、人類は……」


「すると……艦長の不安はこうですか? すでにこの中に『モア』に乗っ取られた人間がいると……」


 副艦長が口にすると、我々の空気はより一層重たくなった。


「あくまでも、可能性を否定できないと言いたい」


「そんな! 信じられない!!」


 衛生士が口元に手を当てて驚いている。


「いえ……しかしモアの生態でしたらあるいは……」


 博士も、深刻そうに声を絞り出している。


「もちろん、私だってクルーを疑うようなことはしたくない。しかし、可能性は否定できない状況にある。注意喚起を私はしたいんだ」


「私は、間違いなく人間です」


 副艦長が手を挙げて示した。


「わ、私だって人間です!」


 衛生士も同じ事をした。


「あのっ!!」





 操縦士の俺は我慢ができず、ついに会話に割り込んだ。


「どうしたのかね。操縦士君」


 全員の視線が、俺に集まる。


「……こいつ、乗っ取られてません?」


 俺が、右隣に座っている技師に指を差すと、技師はビクっと座ったまま飛び跳ねた。

 ……全身が緑色で、目がギョロリとしており、口は人間のそれより大きく、背鰭が生えている。


 そんな技師は、『乗っ取られてない、乗っ取られてない』と、手を左右に振って否定している。


「……どうして、そう思うのかね。操縦士」


「いや! 明らかでしょう! こんな変なやつさっきまで居なかったでしょう!!」


「そんな! 決めつけるのはひどいわ! 仲間なのに!!」


 なぜか衛生士が悪人を見るような目で俺を見ている。


「いや、目ついてんスか!? こういうフォルムの奴仲間にいましたか!?」


「外見の否定をするのはむしろ君の人間性を……」


「今は人間性の話なんてしてないでしょう!! 人間じゃないのがいるって話でしょ!!」


 すると、緑色の技師は明らかに誤魔化すように頭を掻いている。……足のつま先で。


「……動揺している人間は普通、足で頭を掻かないと思うんスけどね」


「どうしても、技師をモアにしたいみたいな論調だな。操縦士君」


「どうしてそうなるんスか!? ……え!? ここまで長引く問題ですか!? これ! ……え、俺しか見えてないの!? ……お前も人間ならなんか言えよ!」


 俺は思わず緑色の技師を殴った。すると衛生士が……


「仲間に対して暴力はやめてよ!!」


「こんな仲間いたか!? 技師、最初から緑色だったか!?」


 おかしい……どうして話がこじれる? というか、どうして俺が若干悪者になっている……?


「まあまあ落ち着きたまえ。操縦士君が不安を抱えているならば、それはクルーとして全員で解決するべきだ。技師君。君は何か、自分が人間と証明できるかね?」


 すると緑色の技師は明らかに挙動不審になり、キョロキョロとクルー全員を見回す。そして……緑色の技師は右手と、左手で、『人』という字を作った。


「…… ……え、それだけ!? それだけで自分が人間だと言い張れるわけ!?」


 しかし、そんな技師……いやもうモアの様子を見て、衛生士はなぜか涙を流して感動している。


「そうよね……こんな時こそ、支え合わないとダメよね。

 艦長! 技師が人間であることは私が保証します!」


「おかしいでしょうよ!? そうはならないでしょうよ!?」


「もういい喋るな! 操縦士!」


 副艦長が、必死の俺を諫めた。


「これ以上喋ると、私はむしろ君を疑いたくなる」


「何でよ!?」


「逆に、君は自分が人間である証明はできるのかね」


「……だって俺人間ですもん! コイツと比べたら高いレベルで人間ですもん!」

 

 俺が謎の理不尽と不条理に直面している間……、緑色の技師……モアはしれっと立ち上がって、大きい口を開き……艦長に噛みつこうとしている。


「おめえ何してんだよ!!」


 思わずモアをどついた。


「暴力はやめてよ!」


「見てなかったんスか!? 今、食おうとしてましたよコイツ!?」


「やめたまえ! ……いや、私が悪かった。

 注意喚起のつもりだったが、みだりに君達を動揺させる発言はするべきではなかった。我々の中にモアが紛れているわけがない。一度落ち着こう。解散……」


「いいや納得できないっスねえ!?」


 俺がいくら食い下がっても、全員が俺を、異常者を見るような目で見てくる。

 そんな顔たちを一通り眺めていると……

 一人だけ緑色の技師が真っ赤な舌をベロベロベロバー……と挑発的に出していた。

 

 非常に良くないことが、船内で起きていることは明らかだった……。

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