第5話 記録が終わらない
ノートは埋まっていった。ページが埋まるたびに、新しいノートが僕の手元に現れた。最初から用意されていたのか、後から補充されているのかはわからない。わからないが、僕はそれを使った。選択肢はない。
死者は途切れなかった。ひとり書き終えると、次が来た。次が来るまでの間に夕方が夜になることはなかった。夕方は夕方のままだった。川の音も一定だった。ベンチの硬さも変わらなかった。
世界は救われない。僕はそのことを、誰かに言われたわけではないが知っていた。救われない世界で、死者の夢を記録する。記録は慰めにもならないし、証拠にもならない。けれど、書かれた文字は残る。残る場所がどこなのかはわからない。わからないが、残るという事実だけがある。
ある死者が言った。
「この夢、終わらないね」
「終わらない」
「じゃあ、起きないの?」
「起きない」
死者は頷いた。頷きは、会話よりも便利だった。
僕はペンを動かし続けた。川。ベンチ。夕方。パン。靴下。コーヒーの匂い。走り始めの空気。誰かの「大丈夫だ」。それらは混ざり、ほどけ、また並んだ。
仕事は続いた。続くという言葉は、終わりよりも曖昧だった。僕はその曖昧さの中で、文字を書き続けた。理由はなかった。ただ、それが僕の職業だった。
異世界で死者の夢を記録する仕事 nco @nco01230
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