「典型SF」を集める ―― 本棚、企画ご参加へのお礼
- ★★★ Excellent!!!
本作はメタナラティブな構造を用いて、「文学が成立する条件」そのものを主題化した、非常に知的で興味深い作品だと感じました。
AI大規模言語モデルとの対話を通じて「最適文学」とは何かを探究した結果として提示されるのが、「誰にも読めない小説」であるという構図は皮肉的でありながら一貫しており、文学性を好む読者を巧みに惹きつけます。同時に、AIや言語モデルの特性をある程度理解している読者に対しても、単なるギミックに留まらない問いを投げかけ、先を読み進めさせる力を持っている点が印象的でした。
個人的には、かつて流行した「火星文翻訳ソフト」を想起しました。適切な解読器を持たない読者にとっては、意味を持つテキストであっても乱碼にしか見えない。その意味で、本作における「読めない」という状況は、技術的な不可能性というよりも、読解条件の不一致によって生じる必然として描かれているように思われます。
また、本作のタイトルにある「ただ一人の読者」とは、AIや未来の読者を指すというよりも、最終的にはこのテキストから意味を掬い上げてしまった作者自身を含意しているようにも読めました。意味が共有されないまま私人化されていく読書体験そのものが、物語の終盤で静かに回収されている点も印象的です。
厳密に言えば、本作は典型SFの枠組みにしっかりと収まっている一方で、工学的・技術的な観点からはハードSFの領域には踏み込んでいません。しかしその点は弱点というより、文学的命題に焦点を絞った結果であり、作品全体としての自洽性は保たれています。
メタ構造を理解した上で読むと、非常に示唆に富んだ、発想の面白い一作でした。
本企画へのご参加に感謝するとともに、ぜひ多くの方に薦めたい作品です。