第2話 喧嘩。
「だから今日お前の洗濯の日じゃないじゃん!! お前の洗濯した後とか洗濯機汚いじゃん!!! 知らないで洗濯回しちゃったよ最悪!!!」
「うわ、やってるなー」
ユニット前の廊下で光と話していると、中から縫十の大声が聞こえた。
いつもの縫十の変な言いがかりが始まったのだ。俺と光は顔を合わせ、同時に肩を竦めた。
面倒くさいが、止めた方がいいのだろう。
俺たちはユニットの中に入り、リビングに向かう。縫十は顔を真っ赤にして年司に正座をさせていた。ソファーには平和が座っている。
「ご、ごめんね縫十くん……」
「ごめんねじゃないよ!! どうしてくれるの? 君の菌ついたじゃん」
声を掛けようと、俺も光も一歩前に出たときだった。
「くだらねぇ」
「は?」
平和か溜め息を吐いて、彼らの間に入った。俺も光も、平和のはじめての行動に少なからず驚いた。
「お前も正座なんかするなよ、てか謝るな。何が悪いんだよ」
「え。えっと、だって洗濯したから」
「じゃあそんなことで謝るなら二度と洗濯するな」
「えっ、えっと平和くん……」
「理不尽なことに謝るな、全部テメェのせいになるぞ。それとも、全部テメェのせいにされたいんか? 随分な性癖だな」
「ち、違うよ!」
年司が慌てて立ち上がった。それを見て縫十が眉間にシワを寄せる。
「テメェも小せぇ男だな。そんな気にするなら自分がはやく洗濯しちまえよ。ああ、他人の菌気にするくらいなんだから、もちろん自分は毎回曹洗浄してくれてるんだよな? 毎回毎回ありがとうございますね」
平和が挑発するように笑う。それを見て俺の隣にいる光が俺の服の裾を引っ張った。
「これヤバイ奴?」
「収集つかなくなったら止めるぞ」
「おう」
平和は別に喧嘩を仲裁する気があるわけではないようだ。むしろ、完全に縫十のことを煽っている。
恐らく、これが素なのだろう。2か月という時間が彼を少しは施設に馴染ませた結果だ。今までは言いたくても我慢していたに違いない。
「何で僕が君らに合わせないといけないわけ? 僕は9時にお風呂入るからその時に洗濯したいの」
「俺たちだってアンタに合わせる道理はない」
「年下の癖に生意気だなぁ!」
「年上だからって偉そうにしてるんじゃねーよ、クソが!」
「汚い言葉を僕に使うな!」
「クソにクソって言って何が悪いんだよ!!」
「うるさい」
二人が大声を張り上げはじめてので、俺はすかさず声を挟んだ。
縫十は罰が悪そうな顔をして俺を見た。彼は、俺や光と去年も同ユニットだったため、散々喧嘩をした。その度に俺と光は彼をたくさん泣かしていたと思う。そのためか、俺らには頭が上がらないらしい。その代わりに年下には口うるさいが。
平和は俺のことも睨んでいた。
「うるさくって悪かったな!」
「あ、へ、平和くん!」
平和は明らかに怒って自室に戻る。上からはバンとドアを閉める大きな音が響いた。年司もキョロキョロしてから、慌てて2階へ逃げていく。
「ご、ごめんね希己くん、光くん」
縫十が苦笑いを俺たちに向ける。
俺は、何だかドッと疲れた気がした。
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React 東 @azzuma
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