その場で痙攣する日村大樹

脳幹 まこと

朝のモーニング・ルーティーン


 僕は日村大樹。現在、大学四年生だ。今日は朝のランニングをする日なので目を開けて起きようとしていた大学四年生の僕、日村大樹は、ベッドで目覚めた。温かい布団をどけて床に足をつけると冷たさを感じた。

 その冷たさで目覚めた僕は温かい布団をどけて立ち上がり、部屋にいる犬に餌をやろうと一歩を踏み出した日村大樹は、棚に向かって一歩を踏み出した。棚にはドッグフードがあって、僕の犬の名前はシロウだ。シロウに餌を与えようと一歩を踏み出した僕は今日は朝のランニングをする予定だ。餌の器にはシロウと書いてある。床の冷たさを感じながらドッグフードを入れる。シロウと呼ぶとシロウがやってきた。シロウがおいしそうにドッグフードを食べている。大学四年生になった僕もまた温かい布団をどけて立ち上がり、一歩を踏み出した。ランニングに向かわなければならない。するとドッグフードを食べたシロウも一歩を踏み出した。床は冷たい。外は冷たいだろうなと思いながら玄関に向かう。ランニングシューズを履いた僕とシロウは、一緒に走り出す。その頃、日村大樹は大学四年生になっていた。


 外の空気は冷たい。冷たい空気を吸い込んで、僕はアスファルトを蹴った。アスファルトを蹴る足の裏には衝撃がある。その衝撃を感じながら日村大樹は走っている。大学四年生の僕は白い息を吐いた。白い息は空に消える。空に消える白い息を見ながら、僕はリードを短く持った。リードを短く持った手はかじかんでいる。かじかんだ手でリードを持ったまま、僕はアスファルトを蹴り続けている。シロウが横を走っている。シロウは気分が良さそうだった。今日は既にドッグフードを食べている。飯の器にはシロウと書いてある。横を走るシロウを見下ろしながら、僕は冷たい空気を吸い込んだ。

 前方に赤信号が見えた。赤信号が見えたので僕は立ち止まろうとした。立ち止まろうとして足を緩めると、シロウも足を緩めた。足を緩めて赤信号を見ている僕は、まだ走っているような気がしてアスファルトを蹴った記憶が蘇る。信号待ちをする日村大樹は大学四年生だ。止まった世界で息だけが上がっている。上がった息を整えようとして、僕は赤信号を見ている。信号が青に変わる。

 青に変わった瞬間に、僕はまだ立ち止まろうとしていた。しかしシロウが歩き出す。歩き出したシロウに引かれて、僕はまたアスファルトを蹴り出した。冷たい空気がまた肺に入ってくる。既に信号は青だった。渡りきった頃、僕はまだ赤信号を見ていた記憶の中にいた。アスファルトを蹴る足の裏には衝撃があって、それはランニングの間、ずっと起こっていた。


 ランニングが終わった僕とシロウは、玄関の鍵穴に鍵を差し込んだ。鍵を差し込んだ感触が指に残っているうちに、ガチャリと音がしてドアが開いた。既にドアが開いていたのでシロウは家に入ろうとして、鍵を抜いた。鍵を抜いたのは日村大樹だった。シロウが先に家の中に入る。家の中に入ったシロウを見て、僕は「ただいま」と言おうとしてドアを閉めた。ドアが閉まる重たい音がした。「ただいま」その音を聞きながら、僕はまだ鍵穴に鍵を差し込んでいる気がした。

 靴を脱ぐ。ランニングシューズを脱いで上がると、床の冷たさはもうない。家の中は暖かい。リードを外そうとしてシロウの首輪に手を伸ばした。手を伸ばした僕は大学四年生で、今日は汗をかいている。汗が冷えていく感覚がある。リードを外すとシロウはリビングへ走っていった。リビングへ走っていくシロウを見送りながら、僕は靴を揃えている。靴を揃えた今日の僕は、自分の汗の臭いに気づいた。シャワーを浴びなければならない。浴室へ向かおうとして廊下を歩く。廊下を歩く僕は、まだ玄関で鍵を回しているような気がして振り返った。誰もいない。僕は浴室のドアノブに手をかけた。手をかけた瞬間、鍵が開く音がしたような気がした。既に鍵は開いていた。

 汗を流そうとシャワーの蛇口を捻った。蛇口を捻るとお湯が出た。お湯が出たので僕は服を脱ごうとしている。靴を脱ごうとしたが、靴はもうなかった。服を脱いで浴室に入った日村大樹は、大学四年生だ。頭からお湯を浴びる。お湯を浴びると温かい。この温かさはまるで布団のようだ。温かさを感じながらシャンプーを手に取った。シャンプーを手に取った僕は、布団のようなお湯を浴びている。泡だった髪を洗いながら、僕は蛇口を捻っていた。蛇口を捻ってお湯を止める。お湯をどけると静かになった。静かになった浴室で、僕はシャンプーを洗い流そうとして立ち上がり、蛇口を捻る。体についた泡が流れていく。泡が流れていくのを見ながら、僕は大学四年生の日村大樹であることを思い出している。シロウが吠えているので前を見ると、既に信号は青になっていた。体を拭いて浴室を出る。浴室を出た僕は、まだ髪を洗っているような気がして頭を触った。外の空気は冷たかった。髪は濡れている。濡れた髪を拭きながら、僕は服を着ようとしている。靴も揃えようとしたが、靴はもうなかった。服を着た僕はさっぱりとした気分だ。さっぱりとした気分で冷蔵庫を開ける。冷蔵庫を開けると冷たい空気を感じた。その冷たさは、朝の床の冷たさと同じだった。冷たい水を飲みながら、僕は既にシャワーを浴び終えていた。


 身支度を整えた僕は大学へ行くために鞄を持った。鞄を持った僕は日村大樹だ。大学四年生になった僕は、大学へ行くためにドアを開けた。外の空気は冷たい。冷たい空気を吸い込んで、僕はアスファルトを蹴った。革靴を履いているはずの足の裏には、ランニングシューズの感触がある。ランニングの間、ずっと感じていた衝撃だ。その感触を感じながら、僕は駅に向かって一歩を踏み出した。一歩を踏み出した僕は、今日は大学へ行く日だ。

 しかし冷たい風が吹くと、僕は走り出していた。走り出した僕は鞄の重さを感じながら、リードを握っているような気がして手を握りしめた。手には何もない。何もない手を握りしめながら、僕はアスファルトを蹴り続けている。駅へ向かわなければならない。大学四年生だからだ。白い息を吐いた。白い息は空に消える。シャワーの湯気も消えていく。空に消える白い息を見ながら、僕はまた一歩を踏み出した。日村大樹は現在、大学四年生だ。今日は朝のランニングをする日なので既に目を開けて起きていた僕は、駅に向かって走っている。景色が泡と一緒に流れていく。流れる景色の中で、シロウが横を走っているような気がして横を見た。横には誰もいない。信号も棚のドッグフードもない。誰も何もいないアスファルトを、僕は大学へ行くために走っているのか、ランニングのために走っているのか、温かい布団をどけて立ち上がった瞬間のように分からなくなった。僕は一歩を踏み出す。冷たい空気が肺に入ってくる。僕は日村大樹だ。遂に思い出した。そういえば確かにシロウの餌の器にはシロウと書いてあった。僕は革靴をじっと見た。しかし、シロウはもういなかった。

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