同級生の書いた小説は「僕は人を殺めたかもしれない」から始まる。
クライングフリーマン
同級生の書いた小説は「僕は人を殺めたかもしれない」から始まる。
============ フィクションです ===========
「僕は人を殺めたかもしれない」。その小説は、そんな文字列から始まっていた。
同級生は、小説家志望だった。
だった、というのは、この作品の作者である同級生はもう、この世にいないからだ。
彼は、所謂「出版詐欺」に遭い、自殺した。
Web小説を書いている、と最初聞いた時は、驚いたが、彼らしいと思った。
彼が学生時代、書いたモノはそこそこの出来だった。
だが、同じグループの、あいつに見せたのが、運の尽きだった。
あいつは、いっぱしの評論家気取りで、所謂「ダメだし」をしまくった。
本文の内容とは無関係の「揚げ足取り」だった。
彼は、2番目に私に見せた。
あいつの批評は気にしないでいい、と言っておいた。
彼は、マンガ好きが集まった、私達のグループに最後に加わった。
彼の描いた漫画は見たことがないが、『卒業記念』と題して皆のイラストをノートに描き集めたのを見て、「纏める才能」はあるな、と思った。
私達が描いていた漫画も、あいつはいつも批判していた。
そのイラスト集もだった。
彼は筆を折り、学生時代部活していた、演劇の道に進んだ。
後から彼から聞いた話だが、あいつは彼に「止めとけ止めとけ」と喫茶店で、いつもの調子で説教をした。
彼は、京都の劇団を辞め、東京に向かおうとしていた。
彼は、当然無視をした。
「お前は、この世界の厳しさを知らないんだ」と知ったかぶりで説教することは、『火に油を注ぐ』ことになった。
彼は上京し、養成所に入った。
色々あって、故郷に戻って来た。
色んな仕事をし、彼は勉強してプログラマになった。
情報処理の勉強を始めた時、彼は誰にも話さなかった。
あいつに話すのは、一番のタブーだった。
あいつが結婚した時、あいつは私だけを友人として出席させた。
彼は怒った。結局、『友人からの結婚祝い』という形の祝儀をグループから集め、私が預かることになった。
初めから、「座席が限られているから」などと言わないで、「友人代表として選んだ」と釈明すれば良かったのに、あいつには出来なかった。
あいつは、『謝れない』人間なのだ。自己中で、他人にはとことんやりこめるのに、自分が、その局面になると言い逃れや責任転嫁・問題のすり替えを行う。
もし、あいつが書いた文章を他の者が批判するとカンカンに怒っただろう。
彼が正直者だからか、騙されることも多々あったようだ。
彼は、私の父が亡くなった時は、あいつに報せたが、私の母が亡くなった時には報せなかった。
あいつのお父さんが亡くなった時は、私達に報せず自らも葬儀に出席しなかった。
彼がWeb小説ライターになった時、私はあいつに報せなかった。
トラブルになるに決まっている。
紙の原稿でさえ、まともに読まない人間が、アナログ人間であるあいつが、まともに読んでまともに感想を言うとは思えない。
彼の書いた小説は、映画で言うオムニバス形式で、複数の物語で構成されている。だが、どのエピソードにも、『あいつもどき』が登場する。
稀代の悪役のようだ。
明日は、一般病棟に移れるのだろうか?
もし、私が亡くなったら、天国から応援するしかない。
彼とは、あいつとより付き合いが長かった。
色んなことが走馬灯のように・・・・。
ピィッ、ピィッ、ピィッ、ピィーーーーーーー。
―完―
※蛇足ですが、小説の中の『犯人』『動機』は書いていません。
不要なので。
クライングフリーマン
同級生の書いた小説は「僕は人を殺めたかもしれない」から始まる。 クライングフリーマン @dansan01
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