数分
白川津 中々
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「優しい子なんです」
テレビカメラの前で老女は涙ながらにそう語った。
彼女は十五で子供を産み、十七で夫が行方をくらます。早くに両親を亡くした女は頼るあてもなく必死で働き息子のために身を粉にしたが、些細な行き違いからすれ違っていった。母子家庭においてよくある話だ。息子は非行に走りあらゆる人間に迷惑をかけ、学校にも仕事にも行かず毎日を無意に過ごし、金がなくなれば女から奪った。それは彼女が息子のためにと貯めていたものだった。借りているボロ屋はますます痛み、荒んでいく。女はそれでも毎日休む事もなく働き続け、息子のために金を作っていた。しかしその金が使われたのは息子の死後であった。死因は飛び降りによる頭部外傷。生前最後の目撃は、意識が朦朧とした様子で雑居ビルの階段を上っていく姿である。
息子の死は地元のテレビ局によって数分放送の尺が取られ、母子二人が肩を並べた写真とともに母親の嗚咽が映された。写真は息子が八歳を迎えた時に撮影されたものである。
「優しい子なんです」
ボロボロの喪服で、歳の割に老け込んだ彼女の顔が映し出される。それは分かりやすい不幸であり、他人が愉しむのに都合のいいストーリーだった。
数分 白川津 中々 @taka1212384
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