第3話 帰りの時間


部屋は、少し広くなる。


机が端に寄せられて、

椅子が減る。


制作の匂いが、

まだ残っている。


あい先生は、

名札の箱を抱えている。


「順番に、どうぞ」


子どもたちが、

一人ずつ並ぶ。


きれいではない。

でも、止まらない。


しょうた先生は、

入口のそばに立つ。


靴箱が、

少しだけ見える位置。


靴が、

一足、逆を向いている。


直す。


それだけ。


「先生、さようなら」


「さようなら」


声の高さが、

それぞれ違う。


「また明日」


「またね」


あい先生は、

目線を合わせている。


しゃがんで、

うなずいて。


「忘れ物ない?」


「ある!」


戻る。


また来る。


「……忙しいっすね」


「うん」


廊下の奥から、

保護者の声が聞こえる。


「今日は、どうでした?」


あい先生が、

一瞬だけ迷う。


「楽しかったと思います」


「そうですか」


「はい」


深くは、言わない。


しょうた先生は、

会釈をする。


それで、十分だった。


靴箱の前で、

朝の砂場の子が立ち止まる。


靴を、

左右逆に履こうとする。


しょうた先生は、

声をかけない。


子どもが、

一度、止まる。


履き直す。


何事もなかったみたいに、

外へ出る。


あい先生が、

小さく言う。


「……今の」


「うん」


「言わないんですね」


「見てた」


「ちゃんと」


「ちゃんと」


廊下が、

だんだん静かになる。


最後の一人が帰る。


ドアが閉まる。


音が、消える。


あい先生が、

名札の箱を棚に戻す。


「一日、終わりましたね」


「終わったね」


「……あ、あれ」


床に、

小さな折り紙が落ちている。


朝の制作の、

ぐしゃっとなったやつ。


あい先生が拾う。


「これ、どうします?」


しょうた先生は、

少し見る。


「置いとこ」


「……ですね」


棚の端に、

そっと置く。


部屋は、

もう静かだ。


あい先生が、

バッグを肩にかける。


「お疲れさまでした」


「お疲れ」


電気を、

一つ消す。


夕方は、

だいたい、こんな感じだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハードボイルド先生 キャンパス委員会 @campusCommittee

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ