離婚後

白川津 中々

◾️

 玄関を開けて明かりがついていない事に、未だに慣れない。


 妻と別れてから部屋が静かで冷たい。今まで当たり前にいた存在がそこにいないというだけで、目に見える色彩が一色消えてしまったようで、本当にここが俺の生きてきた場所なのかと疑ってしまう。家具の位置も付いた傷も変わらずそこにあるのに、まったく知らない部屋に迷い込んだような気持ちになるのだ。その違和感に耐えきれず、毎日さっさと酒を飲んで寝るばかりいる。二人で腰掛けていたソファも大きめの机も一人では広い。音のない一室。自分の呼吸や体を動きが耳の奥にキンと響き不愉快だが、音楽もテレビも動画も耳障りで、結局そのまま、身を縮めている。


「まずい」


 生ぬるい惣菜をビールで流す。粗雑な味が、舌だけ鋭敏にさせる。アルコールで脳を誤魔化しても不安が消えない。まずい惣菜が嫌でも現実を自覚させる。妻はもういない。俺の側にはもう、誰も寄り添ってくれないのだと。


 一人の時間。長い、自分の音だけがある部屋。空白がただ、広がっている。

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