第7話
「くっくっく・・・・・・」
相変わらず暗く塞ぎ込んだ魔女の家に、
静かな、詰まった笑い声が響く。
「ふーっはっはっはっはー!」
カタシェが邪悪に大笑いした。
「バカな村人どもめ!
こつこつと呪文集めのお手伝い、
ご苦労さまでしたなあ!
私に殺されるとはいざ知らず、
ちょっと猫を被るだけでチョロい!」
魔女は覚えた言葉を総動員して、
大きな独り言を叫んでいた。
別に誰かに聞かせているわけではない。
件の必殺呪文は言い間違えたり、
途中で詠唱が途切れたりすると、
他人を幸せな気分にする呪文に変わる。
つまり、これを逆手に取って、
他人を幸せな気分にする呪文を集めて、
それらを順番に組み合わせていけば、
彼女の口で必殺呪文を唱えられるのだ。
さあて、これで誰を殺そうかと、
彼女が初めに思い浮かべたのは、
あの村にいた人々の中で、
一番最初に魔女に話しかけてきた
白い服の司教様、ポープだった。
(この街で一番強いのは多分あの人だ。
だから大虐殺を実行するんだったら、
まずポープ様から殺さなきゃいけない。
でも、私、あの人が殺せるのかな?
能力的に可能かどうかの話じゃなくて、
なんか、情が湧いたって言うのかな。)
「ほんしゅ!」
唐突に魔女がクシャミをした。
なんか、色々と吹き飛んでしまった。
確かに彼女は世を憎む陰気な魔女だが、
仲良くなった人間を殺したいほど
怒り憎しみが満ち溢れている訳でもない。
なんだかどうでもよくなってきた。
とりあえず暖かくしないとと考えて、
彼女は焚き火をすることにした。
必殺呪文が載る黒魔術の本が薪になる。
うぼぁぁぁ・・・・・・と弱々しく呻いて、
禍々しい書物は灰となって消えた。
これで彼女は必殺の呪文を唱えられない。
言葉が長すぎて覚えていないのだ。
呪文が「ありがとう」で始まるのだけは
覚えているが、それだけでは意味が無い。
彼女はクイッと瓶を煽った。
この華やかな香りとまろやかな甘み、
そして気分が高揚するふわふわ感覚。
彼女はそれがクセになっていた。
そして、またクシャミが出そうなようだ。
「に・・・・・・んに・・・・・・に・・・・・・・・・・・・」
そしてクシャミをした。
「ほんしゅっ!!」
彼女は風邪を引いてしまったようだ。
手洗いうがい、バランスの取れた食事、
十分な睡眠、適度な運動、定期的な換気、
感染対策を万全にして冬を乗り越えよう。
この感謝の魔女の名前は、カタシェ。
そして彼女が禁断の呪文を唱え切ることは、
未来永劫、不可能だ。おかわいいことに。
おしまい
感謝の魔女 小藤ゆか @8zimemashite
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