BLショート集
真白透夜@山羊座文学
第1話 夏の思い出
夏休みになると、翔のばあちゃんちに俺も遊びに行って一泊するのが恒例だった。翔とは保育園から一緒。兄弟みたいに育ってきた。この恒例行事はなんと高二の現在まで続いてきた。
「ばあちゃん、この野菜は納屋に入れていいの?」
「んだんだ。いんや若い人がいるとホントはかどるねぇ。今日は翔ちゃんが好きなひっつみにするがらなぁ」
と、おばあちゃんは笑って言った。
二人で畑から野菜を運び、夕食の準備を手伝う。おじいちゃんが三年前に亡くなって、おばあちゃんは一人暮らしになった。ボケてしまわないようにと、忙しい高校生活の合間を縫ってきているのだが、今のところ大丈夫そうだった。
夕飯を済ませると、おばあちゃんがお風呂を用意してくれた。
「……一緒に入る?」
と翔が言う。
「う、うん……」
別に、やましいことはない。保育園からずーっと幼馴染の親友で、家族ぐるみで仲がいいんだから温泉だって何度も一緒に入ってる。何にも、変なことなんてない。
昔々の青いタイルばりの浴室。広くはないから、先に翔が体を洗って湯船に浸かり、そのタイミングで中に入った。体を洗い終え、湯船に入るか迷っていると、翔がちょっと狭いけど大丈夫だよ、と言う。大丈夫なんだろうか、いろんな意味で……。
狭い浴槽で向き合うと顔が近い……。だからって後ろ向きでは……なんて考えていたら、翔が腕を引いてきて、翔に後ろから抱きしめられる形になった。どうしよう。ぎゅっと身を縮めてうつむいた。
「なんだよ、緊張してるの?」
「……うん……」
「そしたら、余計意識しちゃうじゃん……」
翔がさらに強く後ろから抱きしめてきた。ひいっ。首筋に息がかかる。
「保育園の時はチューだってしてただろ?」
「うん……」
「小学校のときは、一生一緒にいようって誓ったよな」
「うん……」
「……で、今は付き合ってるんだからさ……せっかくのチャンスなんだし……そんな、恥ずかしがってばかりじゃ困るよ……」
そんなこと言われても……恥ずかしいものは恥ずかしい。
翔にくるりと向きを変えられ、改めて正面から見つめ合う。翔の腕が伸びてきて、顔が近づく。唇が重なって、ちゅ……っという音が湯気と共に浴室に響いた――
――その後については、ちゃんと掃除をしてからあがったから、おばあちゃんには迷惑をかけてない。
体をほてらせたまま布団に入る。と、翔もこっちの布団に入ってきた。
「ホルストの木星、かっこいいよね」
突然、YouTubeを流し始めた。
「俺は平原綾香のジュピターの方が好きかな」
「あー、そういうばプラネタリウム、最近全然行ってないね」
「久しぶりに行きたいかも」
「初キスのこと、覚えてる?」
「……覚えてるよ。中三のとき、プラネタリウムで暗くなったらしてきたよね……」
翔がフフと笑った。
「我慢できなかったんだもん」
「なんでスタートの時にするんだよ。あのあとの内容なんて全然覚えてない」
翔はまたフフフと笑って顔を寄せてきた。もう何度目かのキス。数えてなんかないけど。
――翌朝
昼過ぎには帰るよていだが、それまではまたおばあちゃんの手伝いをする。今日は、おばあちゃんの荷物の整理だった。
「ほぅら、翔ちゃんのアルバムだ」
と、おばあちゃんが開いたページには、公園に埋められた半円のカラフルなタイヤにまたがる、俺たちの姿があた。
「すげ、どのページにも一樹いるじゃん」
「ホントだ。やば」
顔を見合わせて笑った。
「アルバム見てたら日が暮れる。また来年な」
翔はそう言ってアルバムを閉じ、せっかくだからおばあちゃんと三人で写真を撮ることにした。
おばあちゃんのピースが可愛い。こうしてまた、俺たちの思い出が一枚増えた。
了
※お題:木星、タイヤ、孫
BLショート集 真白透夜@山羊座文学 @katokaikou
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