エピローグ「北の地に咲く希望」
あれから、五年という月日が流れた。
北の辺境ヴォルフガング領は、かつてないほどの豊かさと活気に満ち溢れていた。
カイゼルは領主として、その卓越した手腕で領地を治め、領民からの信頼は絶対的なものになっている。そして、僕は彼の番として、その隣で彼を支え続けていた。
『氷の辺境伯』と呼ばれたカイゼルは、今では『慈愛の辺境伯』と呼ばれることの方が多くなった。それは、僕の影響だなんて、皆はからかうけれど。
春の柔らかな日差しが降り注ぐ、城の中庭。
僕たちの手で植えた小さな青い花、リントベルは、今では見事な花畑を作り、中庭の一角を青く染め上げている。
その花畑の中心で、小さな笑い声が弾けた。
「とうさま、見て! ちょうちょ!」
小さな手が、ひらひらと舞う蝶を指さしている。
黒曜石のような髪と、銀色の瞳。カイゼルにそっくりな顔立ちをした、四歳になる僕たちの息子、アルトだ。
アルトは、アルファとして生まれた、元気でやんちゃな男の子。
「こら、アルト。転ぶでないぞ」
僕の隣で、カイゼルが父親らしい、穏やかな顔で息子を見守っている。
五年前には、想像もできなかった光景だ。
アルトの隣では、銀狼のフェンが、大きな体で優しく彼に寄り添っている。アルトにとって、フェンは最高の遊び相手であり、頼れるお兄さんのような存在だ。
「リヒト」
カイゼルが、僕の肩をそっと抱き寄せる。
「……幸せか?」
彼の問いに、僕は満面の笑みで頷いた。
「はい。とても」
絶望の淵から始まった、僕の新しい人生。
それは、たくさんの愛と、優しさと、温もりに満ちた、奇跡のような日々だった。
僕を虐げた家族は、今ではどうしているか知らない。僕を裏切った元婚約者も、修道院で静かに罪を償っていることだろう。
彼らのことを、もう思い出すこともない。
僕には、今、この腕の中にある幸せが全てだから。
「母様(かあさま)!」
アルトが、僕の元へ駆け寄ってくる。そして、僕のお腹に、そっと耳を当てた。
「あかちゃん、げんき?」
「ええ、元気ですよ」
僕は、優しくお腹を撫でた。
そう、僕のお腹の中には、新しい命が宿っている。
アルトの、弟か妹になる子だ。
「今度は、お前に似た子だといいな」
カイゼルが、僕のお腹にそっと手を重ねる。
「ふふ、どちらに似ても、きっと可愛い子になりますよ」
僕たちは、顔を見合わせて笑い合った。
かつて、出来損ないのオメガだと、誰にも愛されないと、そう思っていた。
でも、違った。
僕には、僕だけを愛してくれる、最高の番がいる。
そして、愛する息子と、これから生まれてくる、新しい家族がいる。
空を見上げると、どこまでも澄み渡った青空が広がっていた。
この北の地は、厳しく、そして優しい。
僕たち家族を、これからもずっと、見守ってくれるだろう。
私の居場所は、ここ。
愛する人たちの、隣。
「カイゼル、アルト」
僕は、二人の名前を呼ぶ。
「愛しています。ずっと、ずっと」
僕の言葉に、カイゼルは最高の笑顔で応えてくれた。
北の地に咲いた小さな希望は、今、大きな幸せの花となって、これからもずっと、輝き続けるだろう。
家族に捨てられ「氷の辺境伯」に嫁いだら、手料理で胃袋を掴んで溺愛されました。不遇なオメガが最強のアルファと幸せになる逆転スローライフ 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi
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