「ばあば、そいつパパです)」
志乃原七海
第1話話:金曜日の侵入者たちへ
## 深夜の来訪者とモコモコスリッパとゴルフクラブ
### 第1話:金曜日の侵入者たち
深夜二時。外はしんとした静寂に包まれている。
夫は今週いっぱい、大阪へ出張中だ。心細さもあって、今夜は私の母に泊まりに来てもらっている。二階では、五歳の娘と母(ばあば)が静かに寝息を立てているはずだった。
リビングのソファで読みかけの本を閉じ、立ち上がった瞬間、下の階から**「カタッ」**という、微かな、しかし明確な物音が響いた。
心臓がドキンと跳ねる。私と、母と、娘しかいないはずなのに。
耳を澄ます。再び**「…ズリッ」**と、何かを引きずるような音。
「泥棒…?」
全身の血の気が引く。冷静に、冷静になれ、私。
頭の中で、ドラマの主人公のように自分を鼓舞する。
「大丈夫ー、ママに任せて!」
私は、ベッド脇に置いてあった厚手の**モコモコスリッパ**を右手にしっかりと握りしめた。これしかない。
なるべく音を立てないように、階段を一歩一歩、慎重に降りる。息を殺して、リビングの入り口に身を隠した。暗闇の中に、キッチンの方へ向かう**人影**らしきものが見える。
恐怖がピークに達した私は、握りしめたスリッパを構え、震える声で精一杯、大声を張り上げた。
**「誰!? 何してるの! ! そこを動かないで!!」**
人影がピタリと動きを止める。相手がこちらを振り向く、その一瞬の隙を突いて、私は渾身の力を込めた。
**「うぉおおおおお!!!」**
野球のフルスイングの要領で、右手のモコモコスリッパを、不審者の頭部目掛けて横から思い切り振り抜いた!
**「ドスッ!!!」**
鈍い音と共に、不審者の体にモコモコがヒットする。
**「うわー!いてー!何すんだおま…っ!!」**
不審者は思わずその場にうずくまり、両手で頭を押さえた。その瞬間、リビングの奥の自動センサーライトがパッと点灯し、その正体を照らし出す。
頭を抱えてしゃがみ込み、Tシャツ姿で呻く、**私の夫**だった。
「え?…あなた?!金曜までって…」
床には、彼が落としたらしい**プリンの容器**が転がっている。
「うるさい!日付はとっくに金曜日だ!嘘はついてない!」
夫は、涙目で意味不明な屁理屈をこね始めた。私たちがそんなシュールな口論を繰り広げていると、背後から新たな殺気が立ち上った。
**「あんたたち、何の騒ぎだい!!」**
振り返ると、そこには寝間着姿の母が、鬼の形相で立っていた。その手には、夫が玄関に置きっぱなしにしていたゴルフバッグから引き抜いたのであろう、**7番アイアン**が鈍い光を放っている。
母は、頭を抱えてうずくまっている見慣れないTシャツ姿の男(夫)を、まだ不審者だと認識しているようだ。
「あんた…誰だい!娘に何かしようってんじゃないだろうね!」
母は7番アイアンをカチャリと構え、臨戦態勢に入る。このままでは、夫の頭がプリンではなくゴルフクラブで割られてしまう。
「待って、ばあば!落ち着いて!その人、泥棒じゃなくて…」
「じゃあ誰なんだい!」
このカオスな状況を収めるため、そして半ば呆れ果てながら、私は母に、この深夜の侵入者を紹介した。
**「……ばあば、パパ」**
「ばあば、そいつパパです)」 志乃原七海 @09093495732p
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