同調圧力という無言の圧

かつて、自分は図々しく空気の読めない人間だった。
タダでもらえるとわかれば、率先して「わーい」と貰い、余るようなら「それ貰っていきますね」とがめつく根こそぎ刈り取っていく。
多くの場合、そういうものは子供の頃に矯正されていくものだが、私に至っては社会人になってからもしばらくはド正直に遠慮なく物をもらおうと心構えていた。
結果、それが原因でパワハラじみた叱責を受け、ようやくそこで「遠慮」を学ぶようになった。

そこからが地獄だ。
自分に枷が嵌められてしまったかのように、誰かが取ってからでないと追従できない。
最後のひとつになってしまうと、遠慮してしまってその最後を取ることができない。
本心を言えば、何の気兼ねもなしにサクッとそれを頂いてしまいたい。
だが、そのことで自身の社会的な立場が脅かされるのが好ましくないのだ。
大変めんどくさく、難儀なものである。

本作の主人公は、そんな「難儀」を抱えた一人の女性だ。
人は彼女の事を「考え過ぎ」と笑うかもしれない。
しかし、決して少なくない人が、彼女のような「ご自由だからこそ取りにくい、同調圧力による壁」を感じていることだろう。
本作はそんな「壁」と立ち向かう、少し前に進むためのお話である。
同調圧力に悩まされ、遠慮の塊を産みがちの皆様におかれましては、是非とも本作を読んでいただき、遠慮なく図々しくなっていただきたい。

その他のおすすめレビュー

お仕事中の情シスさんの他のおすすめレビュー662