異星の不安が、ヒーロー好き同志の笑顔に変わる優しいSF短編作品
- ★★★ Excellent!!!
地球が星間連合に加盟し、日本人サラリーマンの清田が単身TA-11星へ営業に向かう。そこで出会うのは、生魚の匂いが立ちこめるお茶、やたらと巨大な取引先夫婦、そして「アドーレイ!」と叫びながら侵入してくる謎の人物だ。2話完結の短さの中に、「異文化コミュニケーションの緊張」と「ニュースで聞くテロや差別への不安」がぎゅっと詰め込まれた、読み心地の良いSF短編だと思った。
とりわけ好きなのは、後編のクライマックスだ。警戒心いっぱいで「テロ組織の合言葉かもしれない」と怯え続けた清田の前に、再び侵入者が現れる。社長の怒号が飛び、腕をつかまれ、スティック状のアイテムが床に落ちる。そこで清田がそれを拾い上げ、「君、アドーレイが好きなんだね。おじさんも、ヒーローが大好きなんだ」と、カバンから『ジャスティーサー』のカードを取り出してみせる場面が、とても温かい。テロかもしれないと恐れていた「アドーレイ」は、実は子ども向けヒーロー番組で、侵入者は社長夫婦の子ども。彼はただ、お気に入りの変身アイテムを「同志」に自慢しに来ただけだった。清田の過剰な妄想と、子どものまっすぐな笑顔が、タイトルの「同志」という言葉にきれいに収束していく構図が心地よい。
異星の少数民族問題やテロ報道といった重めの題材を扱いながら、「ヒーローは画面から飛び出しては来ないが、ヒーローを愛する気持ちは誰かと分かち合える」という着地点にそっと置いてくる手つきが優しい。「生魚の香りの茶」や、やたら子ども扱いされる清田の姿など、ユーモアの効いた細部があるおかげで、読後は重苦しさよりも、異星の喫茶店でそっと笑い合うような余韻が残る短編だと感じた。2話でぴたりと閉じる構成も美しく、タイトルの意味が最後に反転して輝く小品だ。