最終話 悪役を背負う聖女
※前回のあらすじ
タダシの家に再び現れたににの実母と愛人男。セコがズルで応戦するも、ついに追い詰められた。
******
「大丈夫よタダシくん……」
セコはポケットから爆竹を取り出し、男を狙って点火。
「勝てるかどうかじゃない。勝たなきゃいけないのよ!」
爆音が響き、愛人男は後退する。
しかし、まだ仲間はいる。
八人目が木刀、九人目が鉄パイプを構える。
「やれ!」と、愛人男の怒声。
セコは雑誌を投げて木刀を弾き、電気スタンドを倒して鉄パイプの男を退ける。
十人目が背後から飛びかかるが、セコはしゃがみ、前方へ投げた。
「まだやる?」
セコは息を整える。
「卑怯な!だが……強い!」
愛人男はそう言うと、拳を構える。
それにセコは冷たい声で言い返す。
「あら、ごあいにく様。悪事をもって悪事を制す。これが私よ」
「タダシくん、ににちゃんが!」
真衣の指先の先には、ににを捕まえた実母。
「ぐぐぐ、お兄……」
バン!
突然、実母のポーチが弾け、煙が充満する。
「ゴホゴホ、何よ、これ?」
「タダシくん、今!」
「おお!」
俺はににを取り返した。
「真衣も人質にされるかもしれない。二人がさらわれないよう守っていて!」
「ああ、わかった。セコも無理するなよ」
「ええ、わかってるわ」
セコは攻めをやめない。
「あなたがににちゃんの育児放棄をしていた過去。児童相談所に説明して来たわ。でもまだ足りない。これまでの無責任な言動も、ここでの暴挙も、全部暴露してあげるわ」
実母の顔が青ざめる。
「責任は全部私が被る」
セコは宣言する。
「ににちゃんを守るためなら、私は悪役になっても構わない」
セコのその鋭い目力には覚悟が滲んでいた。
仲間たちは次々と倒れ、愛人男も膝をつく。
実母は追い詰められ、そして──ついにににを連れ戻すことを諦めた。
「……もう、いいわ」
そう吐き捨て、愛人男と共に去っていった。
それから、にには涙ながらにセコに抱きつく。
「セコ姉、ありがとう……」
セコは優しく抱き返し、呟いた。
「ズルは人を傷つけることもあるけど、救うこともあるのよ」
*
秋の夕暮れ。宗方家の前の道を、俺、にに、真衣、そしてセコの四人が並んで歩く。
「次はクリスマスだな」
俺が呟くと、真衣が笑顔で頷いた。
「そうだね!次はみんなで楽しいことをしよう!」
ににも「楽しみー!」と跳ねた。
張り詰めていた空気が柔らかくほどけていった。
遠くの家々が茜色に染まる。にには、セコの手をしっかりと握りながら、何度も上を見上げて笑っている。
その様子を見て、真衣は安心したようにそっと微笑み、俺の肩を軽く叩いた。
「セコちゃん、本当にすごいね。あんなに自分のことを犠牲にして、ににちゃんを助けてくれて……。私、セコちゃんが、タダシくんの隣にいてくれて良かったって、心から思うよ」
俺は、そんな真衣に向き直って、深く頷いた。
「ああ、それに──真衣も……俺にとって大切な存在だ」
すると真衣は頬を赤らめて慌てて首を振る。
「そ、そういうこと言わないで!」
友情の絆と、淡い火花のような感情が交錯していた。
──しばらく歩きながら俺はふとセコの横顔を見つめ、口を開いた。
「……セコ。いつもお前ばっかり危険な目に遭わせて、俺、何もできなくてごめんな」
すると、セコは一瞬目を丸くしたが、すぐにぷいっと横を向き、頬を赤らめる。
「はぁ?何言ってんのよ。あなたがドジだから私が動いただけでしょ。次はちゃんと役に立ちなさいよ、タ・ダ・シ・くん♪」
ツンとした声に、俺は苦笑しながら「……それでも、ありがとな」と呟いた。
その瞬間、セコは誰にも聞こえないように小さくぼそっと呟いた。
「……君の言葉があったから。私を理解して支えてくれるから……私は悪役でも、強くいられるんだよ」
それは小さな声だったが、隣を歩いていた俺にははっきり届いた。
思わず足を止める俺に、セコは慌ててぷいっと横を向き、頬を赤らめる。
「き、聞こえてたなら忘れなさい!今のは独り言だから!」
俺は苦笑しながら答える。
「……忘れられるわけないだろ」
俺たちの視線が、ほんの一瞬だけ絡み合う。
その時、ににが無邪気に声を上げた。
「兄貴、セコ姉と手つないでるー!結婚するのか?」
セコは慌てて手を離そうとしながら叫ぶ。
「ば、ばか!違うわよ!」
俺は苦笑しつつ、そっと握り返した。セコは抵抗せず、ただ強く握り返してきた。
俺は、この隣にいる彼女の全てを、愛おしく思っていた。
セコはツンとした顔を作りながらも、横顔にはほんのり柔らかな微笑みが浮かんでいた。
「……早く、家に帰って休もうぜ」
そう俺が言うと、セコは小さく「ええ」と頷いた。
夕暮れの空に、未来への予感が広がっていく――。
タダシくん、あなたは何にもみていな〜い♪【2】 憮然野郎 @buzenguy
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