第4話 怪しくほくそ笑む聖女
※前回のあらすじ
タダシの家にににの実母が訪れる。
タダシと真衣はににを守り、一度は実母を退けたが、数日後に実母は愛人男と再び現れ、ににを強引に連れ帰れうとする。この時セコは不在。宗方家は極度の緊張に包まれる。
******
宗方家の玄関に、再び重苦しいチャイムが鳴り響いた。
ドアの向こうには、ににの実母。そして、その隣には、筋肉質で目つきの鋭い愛人男。
「弁護士には話をつけてきたわ。タダシくん、あなたのご両親はどこ?今日こそににを返してもらうからね」
実母の声は冷たく、愛人男は腕を組み、威圧的に立ちはだかる。
俺は必死にににを背に庇いながら言葉を返す。
「あいにく両親は今日も夜まで仕事で家にいない。ににはもう俺の妹だ。勝手に連れて行かせるわけにはいかない」
だが、言葉だけでは押し切られそうになる。愛人男が一歩踏み出すたびに、にには怯え、俺の背中にしがみついた。
そこへ、真衣が勇気を振り絞り、前に出る。
「ににちゃんの今のご両親に話はされたんですか?」
真衣の真剣な声は空気を震わせた。だが、実母は鼻で笑う。
「そんなもの関係ないわ。戸籍上はずっと私の子のままなんだから」
愛人男も嘲笑する。
「ガキの小娘が口を出すな」
真衣の言葉は相手にされず、場の空気はさらに重くなる。
その時、家の近くの道端から軽やかな足音。
「お待たせ。コンビニで新作スイーツ買ってきたら、面白い場面に出くわしたわね」
セコが戻ってきた。
それも、大きな買い物袋を引っ提げて……。
清楚スマイルを浮かべながらも、その瞳は鋭く光る。
「ににちゃんを返してもらうですって?……ふふ、ずいぶん面白い寝言を言うのね?
悪いけど、ここは私の
「二人とも、耳を貸して」
セコが俺と真衣に策を提案すると、真衣が勢いよく同調する。
「そう、ここはあたってくじけろですよね♪」
「いや、そこはくじけちゃダメだろ」
俺は即座にツッコむ。
場の緊張が一瞬だけ緩み、ににの表情も少し和らぐ。
「こっちは急いでんだよ。痛い目に遭いたくなければ、さっさとお嬢ちゃんを渡しやがれー!」
痺れを切らした男が殴りかかって来た。
俺は直ぐにセコを庇うように間に割り込む。
しかし。次の瞬間──地面の無数のビー玉が転がり、愛人男の足がすべる。
「ちっ……!」
男は壁に手をついて体勢を立て直すが、その瞬間、頭上から水袋が破裂し、冷水が頭から降り注ぐ。
「ぐわっ!」
髪を濡らし、怒りに顔を歪める男。
だが止まらない。
突進した瞬間、廊下に張られた透明テープに絡まり、前のめりに倒れ込む。
「ちぃ、卑怯だな、おい! まあ、事前のリサーチ通りだ」
男は不気味に笑い、背後に合図を送る。
玄関の外から、複数の足音が響いた。
「じゃあ、たっぷり愉しませてもらおうか。
お前たち、来い!」
仲間たちが雪崩のように押し寄せる。
相手はざっと十人以上。
廊下に入りきれず、玄関からリビングへと雪崩れ込んでくる。
「なあ、セコ?本当にこの人数相手に、大丈夫なのか……?」
俺は思わず声を漏らす。
「大丈夫よ。狭い廊下は私の味方。さあ、愉しい愉しいズルの時間よ」
セコは清楚スマイルを浮かべたまま、足元を軽く蹴る。
ビー玉が再び転がり、突進してきた一人目が派手に転倒。
「うわっ!」
その男に後ろから続いた二人目がつまずき、二人まとめて床に倒れ込む。
「次!」
セコは振り返りざまに壁際の棚を蹴り飛ばす。
積み上げられた雑誌や小物が雨のように降り注ぎ、三人目の視界を奪う。
「見えねえ!」と叫んだ瞬間、セコは床に仕込んでいた小さなマットを引き抜き、男の足を滑らせて転倒させた。
そこへ四人目が背後から抱きつこうとする。
「捕まえた!」
だがセコは腰をひねり、ポケットから取り出した小型スプレーを噴射。唐辛子成分の刺激臭が男の目を襲い、悲鳴を上げて後退する。
「卑怯者!」
「ふふ、それは私への最高の褒め言葉よ」
五人目が怒り狂って突進してくる。セコは廊下の奥に張った糸を引き、男の足を絡めて転倒させる。
六人目がドアノブを掴んだ瞬間、仕込んでいた瞬間接着剤が手を固定し、男は「離れねえ!」と叫んで動きを封じられる。
七人目が窓際に回り込む。セコはロープを引き、吊るしていた植木鉢を落とす。
鉢が肩に直撃し、男は呻き声を上げて倒れ込む。
「ぐわっ!」
「なんだこの女……!」
仲間たちは次々と倒れていくが、愛人男はなおも立ち上がり、拳を構える。
「小細工ばかりしやがって……正面から来いや!」
愛人男が拳を振り下ろす。
セコは身を翻し、拳を紙一重で避ける。床に仕込んでいた滑り止めスプレーの範囲に男を誘導し、足を取らせる。
「くっ……!」
男がよろめいた瞬間、セコは背後に回り込み、掃除用モップを振り抜いた。
「ズルは力になるのよ!」
モップの先が男の顎を打ち、男は後退する。
だが男はすぐに反撃。大きな腕でセコを掴み、壁に押し付ける。
「女一人の非力な力でこの俺に勝てると思うな!」
「セコー!」
俺は慌ててセコの方に駆け出す。
しかし──。
つづく
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