人は簡単に変わってしまう。それでも――!

 とても面白かったです!

 訪問してきた営業マンに思わず買わされてしまったのは「愛していた人の好きだった時のコピーを永遠に閉じ込める透明な箱」。この箱を中心とする人々の姿を描きます。

 SF前作の『太宰治に似たロボットが人間に失格しているかどうか判定してくる社会』に引き続き、まずは発想の勝利です。さらにその設定に名前負けしないストーリーで読ませます。

 時を経るにつれて夫婦の気持ちが冷めていく、というのはよく聞く話です。そのあるあるを上手くSFに落とし込んでいるのが秀逸だなと思いました。

 例の箱を使う様々な人々が描かれますが、人間って簡単に変わってしまうよなぁと考えさせられました。でも同時に、感情が時間と共に変わり行くからこそ「人間」たりうるのかなとも思えます。

 箱が持つ能力だけを見ると、愛する相手の言動が変わってしまった人々を救うための「社会の利益」のように見えます。しかし、読んでいるうちに「本当にそうか?」となってきます。この逆説的な設定が面白かったです。面白いというか、もはや興味深さや感心のほうが勝ったかもしれません。よく考えられていると思います。

 桜森様は直近だけでもモキュメンタリーホラーや異世界ファンタジーなど、色んなジャンルの作品を書かれています。小説の書き手として「引き出しの多さ」は絶対の強みだよな~と羨ましい気持ちになりました。