終章
終話 エピローグ
魔界に存在する竜峰山、それは遥か昔より
竜帝の座を譲って約3,000年、その
「何者だッ!!」
ある日のことだ。竜峰山に入ろうとする老いた男が1人いた。男は巨大な
それを見つけた手練れの番人、いや、番竜が2名、その男を止めた。そう、竜峰山の警備はその2匹の
「私だよ。この先で寝転がっているであろう旧友に会いにきただけだ」
「貴方でしたか! 失礼しました!」
男が顔を見せると、警備の
そんな者達が抵抗もなく頭を下げる相手など、この世には数えるほどにしかいない。
「ワッハッハ!! 久しぶりじゃな!! エスト! 見ないうちに随分と老け込んだではないか!!」
「会うたびに言っているではないか。それにお前も人のことを言える立場ではないだろう」
先代竜帝・ジルダ=グラダルオのいる場にエストが到着すると、顔を合わせるや否や、大きな声で話を始めた。
エストは瓢箪から盃へと酒を注ぎ、片方をグラダルオへと渡した。そして2人は酒を流し込みながら、積もっていた話を消化し始めた。彼らが会うのは100年ぶりかその程度だった。
人間の尺度で考えれば久しぶりで済ませられるものではなかったが、一万年以上も生きている彼らにとっては、もはや100年程度で久しぶりと言うのもおかしな感覚であった。それでも、かつては毎日共に旅をしていた彼らにとっては100年も顔を合わせないというのは長いものだった。
「そういえばエストお前、当代の竜帝に会ったことはあるのか? あれは儂の娘なんじゃが……思い返せば紹介したこともなかったろ」
「お前に会う度に顔は見せてるさ。お前がどんな話を聞かせているのか知らないが、私の顔を見る度に感動しているぞ」
「そりゃあお前、この世界に生きている以上お前の話を知らない奴の方が少ないというものよ。儂がわざわざ話さずともな」
エストらの活躍は主に一万年も昔のものではあるが、それは未だに語り継がれていた。寿命の短い人間などにはただの神話としてしか伝わっていないが、それでも誰もが知る英雄譚のようなものだった。
そして寿命の長い種であればあるほど、それは実際に起こっていた昔話となっている。一万年経っても代が一つしか変化しない竜種にとっては神話でありながらも一世代前の話であるために、より憧れが強いのかも知れない。
「お前は今どんな生活をしとるんじゃ?」
「何回も話したと思うが……私はプリセリドのあった地で料理屋をやっているよ。高い建造物に囲まれて、魔導車が走っている街だ。人も多く悪くはない街だが……客の入りはよくないな。宣伝をしてなければ看板も出してないからかもしれないが」
「ワッハッハ! そりゃあ誰も入らんじゃろうな! それでも金はあるからいいんじゃろ?」
「魔物を狩れば金には困らないからな。それに料理屋と言っても、ただたまに来る若い冒険者共の話を楽しんでいるだけだからな。生活としては悪くないものだ」
そう言って再び盃に酒を入れた。一万年も経っているために、今の世界は大きく変化していた。が、魔物という脅威が無くならない以上街を拡大することも簡単ではなく、成長は時間と見合うほどのものではなかった。
一番大きく変わったのは、魔族と人間の垣根が無くなったことだろうか。今ではそれらの混血種も世界中に存在するし、そもそも“魔族”という種族が実在した事実さえ、今の世を生きる人達には詳しくは知られていない。
「それともう一つ聞きたいことがあるんじゃ」
「今日は質問ばかりだな。私の知っていることなら答えるが」
「なんでも
「………ああ、それなら私だな。言わなかったか?」
エストは酒を飲んでから言った。
グラダルオもエストに合わせるように酒を飲み、一息ついてからもう一度口を開いた。
「至ってもない儂が答えを聞くのもズルいと思うんじゃが………どうしても気になるんでな。お前の見た景色を教えてくれんか?」
「構わないが……そうだな。
「だがしばらくして……もう一回覗いてみたんだ。しばらくの間は前と変わらなかったのだが、それは道だと気づいたんだ。異常なまでに広くて、それで長い道だって。だがまぁ、それでも何が変わるわけでもなかったな。ただ道ならば、進んだ先には何かあるだろうと、時間をかけて奥へ奥へと進んだのさ」
エストは抽象的な言葉で説明した。なかなか理解しづらい話し方だったが、それはエスト自身も分かっていた。こんな話し方をしたのは、彼の見た“それ”を表現する言葉がなかったからなのだ。そのため最も近しい言葉で説明を続けた。
「長い時間をかけて、私はやっとその正体を掴んだのさ。それは巨大で強大な回転だった。始まりから今に至るまで、全てを記録し、記憶したものだった」
「……回転?」
「そうだ。その回転はあり得ないほどの
「……なるほど、運命というものか」
過去の記憶がこの世界の法則を作り出し、その記憶が未来を決定付ける。その決定された未来のことを人は運命と呼び、それは過去が存在する以上、そして歴史が長ければ長くなるほどに変え難いものとなる。
本来ならばその回転を観測する者がいないために未来を知ることなど不可能なのだが。
「この世界の真理なんて存外、つまらないものさ。ただただ大きな歴史の図書館で、至ったものはそこにある本を自由に扱えるだけ」
「じゃがその本を使えば未来を見ることもできるのじゃろう? ……いや、それに留まらず過去改変も可能じゃと考えていいか?」
「長く生きているだけはあるな」
だが、それほど便利なものでもなかった。未来を見れば見るほどに、その未来は変わってしまう。それは
だから、
己の記憶や認識は変えられないのだから居心地が悪いというものだ、と、エストはグラダルオの質問に答えた。
「一つ、大回転の軌道に映らない要素があるんだ。それは新たに生まれる魂だ。その魂が生まれること、そしてそれが起こす行動というのは粗方決まっているのだが、それがどのような魂なのか、それは回転の軌道から推測することはできない」
「……起こす行動が決まっているなら大した違いはなかろう?」
「基本的にはな。ただその魂が私のような規格外の力を有していたならば話は別だ。これまで積み重ねてきた全てをひっくり返すほど大きな力を持った魂が生まれればな」
「ふむむ……。……なら加えて三つ、質問をいいかな?」
グラダルオは一息ついてから再び尋ねた。エストは変わらず、知っていることなら、と答える。
「では一つ、お前はその力を得たんじゃよな?」
「そうだな。とはいっても回転のほんの片鱗、ささくれのようなものを拝借しただけだがな。今は私の魂の中に小さな回転がある状態よ」
「ではもう一つ、お前は例えば……その力を使ってセリアを生き返らせようとは思わなかったのか?」
ネフィル=セルセリア、それは一万年前に魔神との戦いで死んだ、エストの最愛の人だ。久しぶりに聞く名前にエストは少しばかり静かになり、酒を一口飲んでから答えた。
「考えなかったわけではない。ただ……セリアの死なない過去を作り出せば、その代わりに誰かが死んだというだけだ。その者もセリアも認識はしないだろうが……それはセリアの望むものではないからな。私は神ではない。命を天秤にかけられるほど大きな存在ではないのさ。それで?」
「……では最後じゃが、未来を見れるお前が今儂に会いに来たというのは……偶然かな?」
「…………せっかくの酒の場なんだ。つまらないことを聞くな」
「ワッハッハ!!それもそうじゃな! いや、失礼。お前が儂好みの酒を持ってきたというのに、楽しまねば勿体ないな」
それから何時間だろうか。とにかく随分と長い間、二人は話しながら酒を流し込んでいた。
日が落ち、再び日が昇り、そのときにはグラダルオの勢いは落ち着いていた。そしてそれに合わせるように、エストも手を止めるようになった。
「ふぅ……。あの子はしばらく落ち込むじゃろう。
「ああ。お前の心配事は全部私が解消してやるよ」
「ふふっ……。ありがたいことじゃ。お前にはずっと……迷惑ばかりかけるな……」
「仲間から貰う迷惑は嬉しいものさ。気にする必要はない」
グラダルオはそれを聞いて安堵の表情をし、そして座ったままゆっくりと目を閉じた。
エストは目元を拭い、盃に注がれた酒をグイッと飲み干してからその場を後にした。楽しかった、安心して寝ててくれ、とだけ言葉を残して。
日差しがいつも以上に眩しく感じられた。どれだけ長く生きようとも、この感覚は褪せないものだった。
私は竜峰山に保存の結界を張って、当代竜帝の下へゆっくりと向かった。
あとがき
『神話の英雄譚/神々の楽園』を最後までお読みいただきありがとうございました! 今作がどのような作品かというものを説明させていただくと、一作目である『神話の英雄譚』から三作目の『神話の英雄譚/運命の逆賊』繋がるための間の物語でございます。つまり本番はまだまだ!(とはいえエストの物語はこれで一区切りではありますけどね!)
もしよければご感想をお聞かせください。否定的な内容でも構いません!
それでは三作目、『神話の英雄譚/運命の逆賊』にてお会いしましょう!
『神話の英雄譚/運命の逆賊』
https://kakuyomu.jp/works/822139840776970899
わらびもち
神話の英雄譚/神々の楽園 わらびもち @warabimochi_16
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