第二話 私と獣人くん

「あった!」


 ここはお城の敷地をぐるりと囲む森の中。

 私はワンちゃんを連れてその奥にある城壁までやってきた。

 この城壁の向こうに私のしらない外の世界があるってお母さまから聞いた。

 でも私はきっと知らないままで過ごすんだろうな。


 城壁つたいに歩いていくと、モグラさんか何かが作った小さな穴を発見。

 ここは一昨日お兄さま達から逃げてきたときにたまたま見つけたのだ。

 ここを掘っていけばきっと外にでられるはず。

 このときの為に、私はあるものを持ち歩いていた。

 

「じゃじゃーん!」


 私はポケットからご飯を食べる時に使う銀のスプーンを取り出してワンちゃんに見せた。

 ワンちゃんが不思議そうなカオしてるから私は腰に手を当ててフフンと鼻をならした。 


「これはね、スプーンって言ってすごいものなのよ? これさえあれば何でも出来ちゃうんだから!」


『んなわけあるか』


「へ?」


 今、男の子の声がした?

 私はぐるりとまわりを見回した。


 …………。


「ワンちゃん、今だれかの声しなかった?」


 するとワンちゃんはフルフルと首をふった。

 なんだ、気のせいか。

 よし、気を取り直して。


「えいや!」


 土にスプーンをグッと突きさした。


 ザックザック、ザックザック。

 ザックザック、ザックザック。


「おぉ! ちょっと大きくなってきた……って、ワンちゃんどうしたの?」


 ふり返るとワンちゃんがぐいぃと私の服を噛んで引っぱってる。


「あなたを逃がすために掘ってるんだからちょっと待ってて!」


 ちょっときつめに言ったらワンちゃんは目を大きくしてパッと服をはなしてくれた。

 すごい、言ってること分かってるみたい。

 よし、がんばろう!


 ザックザック、ザックザック。  

 ザックザック、ザックザック。


 ……うーん、木の根っことかが出てきた。

 スプーンもまがってきたし手を使うほうが早いかな。

 私はスプーンをポケットにしまって両手で土を掘りはじめた。 

 手はいたいけどワンちゃんを早くにがさなきゃ、きっとひどい事されちゃう。

 いそがなきゃ!


 するとワンちゃんが目の前にやってきて私を頭で持ち上げた。

 そしてそのままポイッと後ろへと放り投げた。


「いったぁ! もう、何するの?!」


 怒ろうと思ったら、ワンちゃんは自分の前足でザクザクザクザクと穴を掘りはじめた。

 すごいすごい!!

 掘ってる間に根っこも切れてどんどん穴が大きくなっていく。

 そしてあっという間にトンネルが完成した!


「やった!! ワンちゃんすごい!!」


 私は向こう側から帰ってきたワンちゃんの首にギュッと抱きついた。

 顔はそっぽ向いてるけどシッポでタシタシと地面をたたいてる。

 フフ、『すごいだろ』って言ってるみたい。


 よかった、これでワンちゃんが捕まらずにすむ。

 さびしいけどここでおわかれだ。


「さぁ早くここから逃げて!」

 

 気を取りなおしてワンちゃんをトンネルへ押しこもうとしたら、逆にワンちゃんが私をグイグイおしてきた。


「ちょっと、なにするの?」


『お前もいっしょに行くぞ』


「え?」


 今ワンちゃんからハッキリと男の子の声がした!

 どういうこと?!


「今の、ワンちゃんがしゃべったの?!」


『ワンちゃんじゃねぇ! オレはオオカミ属だ!!』


「オオカミ属?」


『連れ戻される前に行くぞ。 さっさとしろ!』


「え、まって、どこに行くの?」


『フカルクだ』


「フカルク?!」


 フカルクはランタッベルと敵対してるお隣の国。

 人間しかいないランタッベルとちがってフカルクにはいろんな人が住んでるって聞いたことがある。

 エルフ、ドワーフ、亜人、中でも一番多いのが獣人族だ。

 ということはこのワンちゃん、じゃないオオカミさんは……。


「おい! そこで何をしている……って犬?!」 


 うわっ、兵隊さんが来ちゃった!

 捕まったら殺されちゃう!

 するとオオカミさんが牙をむいて勢いよく飛びかかった!

 おどろいた兵隊さんは持ってた槍を私たちに向けた。


「ヒッ! や、やめろぉ!!」


 オオカミさんに押したおされた兵隊さんはジタバタと持ってた槍を振りまわした。

 あぶない! オオカミさんにあたっちゃう!!


「ダメ!!」


 叫んだらいきなりゴォッ!と強い風が吹いた。

 なになに? 一体どうしたの?!


「ギャアッ!!」

 

 あ、オオカミさんと兵隊さんが飛ばされちゃう!

 どうしよう!

 と思ったらオオカミさんは上手に風をかわして、兵隊さんだけ城壁にぶつかった。

 あわわ、そのまま気絶しちゃった。

 

『今のうちにいくぞ!』

 

 オオカミさんに服を引っ張られて私は夢中で穴へともぐりこんだ。

 何がおきてるのかよくわかんない。

 でも今はにげることだけかんがえて必死にもがいた。

 

 せまいし目と口に土は入るし、何より鉄玉がジャマ!

 それでもオオカミさんに押してもらって何とか穴から這いだした!


「ぷはぁっ!!」


 息苦しかったトンネルを抜けたら、お城の木よりもずっとずっと大きな木がたくさん生えてるところにでた。

 これも森?

 でもお城の中のとちがってすっごく空気がおいしい!

 ちょっとひんやりとしてて気持ちいい!

 うしろを見たらちゃんとオオカミさんも来てた! 


「オオカミさん! ちゃんと外にでられたよ!!」


 私はうれしくてオオカミさんにとびついた。

 うわぁ、オオカミさんの毛ってすっごくフワフワしてる!

 思わず顔でグリグリしたらオオカミさんがクワッ!と牙を見せた。


『何すんだよ!』


「わぁ! ごめんなさい!!」


 怒られちゃった!

 ……でもオオカミさんのシッポ、パタパタ揺れてる。

 それ怒ってるの? くすぐったかったの? 

 どっちだろ。

 とりあえず今度は気をつけてオオカミさんに近づいた。

 

「私はティルダ。 オオカミさんの名前は?」


「……カイだ」


「カイ、助けてくれてありがと」


 そう言って私はカイの頬にちゅっとキスをした。


 するとカイのシッポがボン!と大きく膨らんだ。

 と思ったらボワンとけむりがでてきた!


 まさかカイがはじけちゃった?!

 どうしよう!

 オロオロと煙を見てたら、ぼんやりと人の形が見えてきた。

 そしてそのシルエットがハッキリした瞬間、目が飛び出そうになった。

 

「きゃあ――ッ!!」


「バカ、騒ぐな!」


「んぐっ!!」


 見たら綺麗な顔の男の子が真っ赤になって私の口を手で塞いでた。


「落ち着け、オレだ、カイだ! よく見ろって!」


 声を聞いてわかった!

 確かにさっきまで一緒にいたオオカミさんと同じ水色の目。

 ちょっと襟足がはねたアッシュグレーの髪。

 それと同じ色のまつ毛で縁取られた瞳はちょっと切れ長でキラキラしてる。

 頭にはワンちゃんみたいな三角の大きな耳。

 そこにはちゃんと青いピアスもついてた。

 

 カイってこんなにカッコいい男の子だったんだ!


 だから余計にはずかしくなって、私は思いっきりカイを突き飛ばした。


「コラ! 何すんだ!」


「分かったからはやく服を着て!!」 

 

「服?」

   

「ハダカのカイなんて見れるわけないでしょ!!」


 そう、私が叫んだ理由はそれなの!

 ハダカなの!

 ハダカの男の子が目の前にいるんだよ?!

 悲鳴上げてもおかしくないでしょ!!


 外の世界の男の子ってみんなこうなの!?

 




 

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幼姫は大人にナイショで敵国を救いに行く 夢屋 @-yumeya-

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