幼姫は大人にナイショで敵国を救いに行く
夢屋
第1話 旅のはじまり
ここは魔法使いがたくさん住む国ランタッベル。
その王さまには三人の子どもがいた。
一番年上のラインハルトお兄さま。
そして私より三つ上のマリアーナお姉さま。
そして私、ティルダ。
ちなみにまだ八歳だ。
今朝は私たち三人と王妃のルミネさまの四人でお城の庭に来ていた。
魔法の練習をするためだ。
お兄さまは頭がいいからたくさんの魔法がつかえる。
最近はむずかしい氷魔法をおぼえたって言ってた。
お姉さまはたくさん魔力があるんだって。
とくいなのは火魔法で、数えきれないぐらいの火の玉がつくれる。
二人ともまだ大人じゃないのにすごいって言われてた。
『さすが王族の子だ』っていっぱいほめられてる。
でも私は、王族の子だけど魔法も何もできない。
だから足かせをつけて的になるしかなかった。
「今日こそ当ててやるから覚悟しろ!」
「練習にならないからちゃんと立ってなさいよ!」
とおくの方からお兄さま達が命令してくる。
二人はいつもこうだ。
私と半分しか血がつながってないからっていじめてくる。
さらにとおくでお茶を飲んでる王妃のルミネさまも私をたすけてはくれない。
半年まえ、病気で弱ってく私のお母さまを助けてほしいっていったけど、ルミネさまはお医者さまもよんでくれなかった。
結局お母さまは助からなかった。
私もお母さまも何か悪いことしたわけじゃないんのに、何でこんな目にあうんだろ。
お城を追い出されてボロ小屋で暮らす私は、よくこうしてお兄さま達とあそぶようになった。
どうしよ! ルミネさまと目が合っちゃった!
するとルミネさまの赤い唇が三日月のようにまがった。
「ラインハルト、マリアーナ。 お母様に貴方達のすごい魔法を見せてちょうだい。 勿論アレが死なない程度にね」
――あぁ、地獄の始まりだ。
「よし、僕はでっかい氷を見せてやる!」
「じゃあ私はたっくさんの火の玉よ!」
ラインハルトお兄さまからは馬車もつぶせそうな大きな氷のかたまり。
マリアーナお姉さまからは風船みたいにふくれあがった火の玉がたくさん出てきた。
「死にたくなきゃお前も魔法使ってみろよ!」
「あんたには無理だろうけどね!」
ケラケラ笑う二人を見てゾクッと身体がふるえる。
こわい。
だけど私は魔法がつかえない。
どうすることもできない。
ドクドクと心臓が痛いぐらいに鳴って息苦しい。
私はいそいでにげようとしたけど、ガチャン!と足かせのくさりに引っかかって転んでしまった。
「「いっけー!!」」
二人は大きく振りかぶって私に投げつけた。
「こないでぇっ!!」
そう祈って私は両手を前へ突きだした。
――パァンッ!!
「きゃあぁぁっ!!」
魔法がはじけて私は吹き飛ばされた。
「いたぁ……」
両腕が地面でこすれてズキズキする。
ゆっくり体を起こすとスカートがぬれてた。
そっか、さっきのはお兄さまの氷とお姉さまの火がぶつかった音だったんだ。
それで氷がとけて死なずにすんだんだ。
ホッとしたら涙がでてきた。
「全く、逃げ足が早いな!」
「本当、不義の子のくせに生意気よ!」
目を吊り上げたふたりの手には新しい氷の矢と火の玉がたくさんあった。
早くにげなきゃ!
でも足かせがじゃまで早く走れない。
だからって死にたくもない!
私は泣きながら必死に逃げつづけた。
◇
「あーあ、結局まともに当たらなかったな。 生意気なヤツ」
「でも私は泣いてぐちゃぐちゃになった顔が見れてスッとしたわ。 また練習しに来ましょう!」
「そうだな」
やっと……、おわった。
ボロボロで地面に転がる私を見ても、二人はたすけてくれない。
むしろ楽しそう。
あ、ルミネさまが来た。
後ろに宰相さまもいる。
宰相さまは私をあおむけにして私の首に指をあてた。
「……回避能力には長けてるみたいですが魔力反応はありませんね」
「怪我もしてるし大した事ないわね。 この忌々しい目もやっぱりお飾りレベルだわ。 はた迷惑な子」
ルミネさまはため息をついて冷たい目で私を見下ろす。
ランタッベルでは『青い目で生まれた王族は才を持つ』なんて言われてる。
この中ではお兄さまがそうだ。
でも私は青よりうすい水色。
昔『とくべつな力がある』っていううわさされてた色だった。
だからお母さまが死んだあと、まわりはこうやって私の力をためしてくるようになった。
でも私は魔力もないし魔法もつかえない。
だから『とくべつ』じゃない。
そう、私の目はおかざりなの。
だから早くあきらめてほっといてほしい。
「まぁ愚民の子におかしな力があっても困るから丁度いいわ。 そのまま私に飼われてなさい」
ルミネさまは『休憩しましょ』といって二人の頭をなでて、三人でたのしそうにお屋敷の方へと帰っていった。
もちろん、ボロボロになった私なんか見もしないで。
はぁ、風は気持ちいいけどキズがヒリヒリする。
髪も少し焼けたし氷の欠片で体はすりキズだらけ。
……うん、体も心ボロボロだ。
「うっ……うわぁんっ! お母さま……お母さまぁ!」
私はお空に向かって大声で泣いた。
天国に行ってしまったお母さまが恋しい。
目が水色だからって一人ぼっちにされて、いじわるされて。
何で? 何でこんな目にあわなきゃいけないの?
こんな目、大っきらい!
イヤな気持ちとなみだがどんどんあふれて止まらなかった。
「ひゃっ!」
今ヌルっと温かいものにほっぺたをなめられた!
なになになに?!
「うわっ! ワンちゃん?!」
びっくりして目を開けたら、大きなワンちゃんがいた!
飛び起きてよく見ると、すごい、座ってる私とおんなじぐらい大きいや。
アッシュグレーの毛色、そして大きな三角の耳にはキレイな青い石のピアスが片方だけついてる。
わぁ、お目々が私とおんなじ水色だ。
でもワンちゃんのはキラキラして見える!
「ワンちゃんのお目々はすっごくキレイだね!」
するとワンちゃんは一瞬目を丸くして、すぐにプイってされた。
ヨシヨシしようとしたのバレちゃったかな。
でもふわふわで大きなしっぽがパタパタ揺れてる。
フフ、かわいいっ。
それにしてもお城の中に動物さんがいるなんてありえないのにどこから入ってきたんだろ。
「ねぇあなた、なんでここにいるの? 迷子になっちゃったの?」
『……』
「私もね、一人ぼっちなの。 お母さまも死んじゃったし、ここの人は皆私の事キライみたいだし。 私もこんな自分、大っきらい……って、うわぁ!」
そしたらワンちゃんがまたペロっと私の頬をなめた。
もしかしてなぐさめてくれてるのかな。
へへ、やさしいワンちゃんだ。
「パンとかあげたいけど私の分もないしな……」
なんかここでお別れるするのイヤだな。
なんとかしてワンちゃんといっしょにいれる方法ってないかな。
「そうだ、帰り道おしえてあげる!」
というのも、わけがあってお城の人たちは動物が好きじゃない。
見つかったら殺されちゃうかもしれない。
私は足かせの玉を持って立ち上がった。
「こっち、ついてきて?」
私が先に歩きはじめたら、ワンちゃんもあとから私を追いかけて来てくれた。
やっぱりかわいいっ!
体中いたいけど、心はすっごく軽くなった!
こんなにワクワクするのっていつぶりだろう。
私は何度もワンちゃんを見ては、うれしくて笑ってしまった。
このままどこまでも行けたらいいのに……。
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