伝承遊び研究部
投稿者:三年G組 萬田剣志郎(匿名希望)
伝承遊び研究部が昨年春に活動休止、事実上の廃部となった理由は、表向きには部員と活動機会の減少からの自然消滅と思われていますが、事実は異なります。
というのも、自分の兄は当時の伝遊研部長のクラスメイトであり、その後校内で語られた「部長は家庭の事情で転校した」という説は学校側が用意した嘘であったと知らされたのです。
伝遊研が単にかんぽっくりや竹馬で校内を練り歩いたり、朝の校門で〈ゲリラとおりゃんせ〉に無関係の生徒を巻き込んだりするトンチキ集団だったというのは巧妙に作られた偽りのイメージなのだとすれば、かえって底知れない不気味さを感じます。
兄曰く、彼らが真に情熱を燃やしていたのは、オカルトな
目的が何だったのかは不明ですが、結果として彼らの計画は失敗に終わりました。
伝遊研部長の失踪とともに。
もっとも前述のとおり、部長の失踪も単なる転校とされているうえ、部員とクラスメイトには緘口令がしかれました。
人の口に戸は立てられぬと言いますが、意外なことにこの緘口令はほぼ完璧な効力を発揮したのです。
流行りの漫画に呼応するようなセパタクロー同好会の全国大会での快進撃とその熱狂、そして後の騒動が同時に発生して、校内はその話題で持ちきりだったせいかもしれません。
そちらについては、他でもない都市研の副部長さんが当事者なのでお詳しいかと思います。個人的には大人たちの慌てふためくさまが痛快でした。
あるいは、そうして噂が紛れて掻き消えたことまでもが伝遊研の目論見通りだったというのは考えすぎでしょうか。
そんな一見馬鹿らしいことを考えてしまうほど、あの部は深い謎に包まれています。
彼らが何をしたのかはわかっていませんが、“箱”を使ったオカルトな儀式であったのではと推測しています。
そう思ったきっかけは今年、アフリカ音楽研究部を立ち上げた生徒と仲が良かったので、部室候補として元・伝遊研部室の内見に同行したときでした。
埃っぽい室内はカーテンが閉め切られ、大量の紙風船、けん玉、独楽、羽子板、百人一首などがすべて方向まで合わせて異様なほど整然と陳列されており、散らかっているよりもかえって不気味でした。
そもそも解散した部の部室にあんなに物が残されたままになっているのは変ではないでしょうか。
相反するように部屋の半分ほどの範囲に乱雑に積み上げられた大小の箱がいやでも目を引きました。
ダンボールや木箱、ブリキ缶やアルミ製トランクなどが入り混じった大量の箱のうち、手近なものを五つほど開けてみましたが、そのうち三つには中におもちゃが一つずつ入っていました。
指人形、ロボットのプラモデル、ペンギンの目覚まし時計が大きさに合わせた箱に収められており、どうやら大半の箱におもちゃが入っているようでした。
幼稚園や学童へボランティア活動に行っていた伝遊研ですから、何かの催しの景品として用意されていた可能性も否定できません。
しかしそれにしては、おもちゃのコンディションが悪いのです。
指人形は一部が失敗したガラス細工のようにぐにゃりと変形しているし、プラモはパーツが全然足りないし、目覚ましはペンギンの頭が派手に割れていました。
その時点でアフ音部の部長は気味悪がって退室してしまったのでじっくり探索することはできませんでしたが、一番目についたのは壁際のロッカーです。
縦長の長方形で高さ一メートルほど、それが一〇個ほど連なった金属製ロッカーでした。
それだけならば何でもないのですが、ロッカー中央の扉を中心に、まるで爆発でもあったみたいに真っ黒い煤で放射状に汚れていたのです。
そこ以外は埃はあれど、高校の部室らしい汚れや落書きがまったくなかったので余計に目立っていました。
そのロッカーがやけに気になり、少し迷いましたが、扉に手を伸ばしました。
ロッカーの中で何かが燃えたのだろうか、と思いながら取っ手に指をかけた瞬間、嫌な想像が脳裏をよぎりました。
兄から聞かされていた伝遊研部長の失踪とこのロッカー、そしてオカルトな取り組みは何か関係があるのではないか、と。
いま背後に積み上がっている箱の中にはおもちゃが一つずつ。
空の箱には何もなかった。箱の隅にたまった指先で払えるほどの、劣化した紙を思わせる黒い塵以外は。
あれは燃え殻だったのではないか?
では、燃えた本体はどこへ行ったのか?
このロッカーの中で何が燃えたのか?
何が──あるいは、“誰が”?
後から思えば、人が一人消えるなんてことが起こった場合、いくらセパタクロー部の話題が大きくても警察の捜査が入ったり大事になって噂くらい流れるのは避けられないでしょう。
仮に焼死だとしたらなおさらです。
そうなっていないのだから、突飛な推測は間違っているはずです。
しかしそのときは、冷静に考えればあり得ないような発想が頭の中をぐるぐる回り、扉に手をかけたまま何秒か固まっていました。
やはりやめようと手を離そうとしたのですが、指先が引っかかって取っ手を引いてしまいました。
ガチン。
扉は開きませんでした。
鍵がかかっているらしく、固い手ごたえがあるだけでした。
思わず風船から空気が抜けるような情けない溜息を吐いてしまいました。
もうすっかり部屋全体が気味悪く感じられてしまっていたので、アフ音部の彼に謝りながら部室の戸を開けると、そこには誰もいませんでした。
陰気に静まり返った無人の廊下が伸びているだけでした。
待ちかねて帰ってしまったのだと思い、借りていた鍵を取り出して施錠していた時でした。
ガン、ガン。
確かに金属音を聞きました。
足早に立ち去りながら、さっき取っ手を引いてしまったことでロッカーの金属板のどこかが歪み、それが元に戻って音が鳴っただけだと自分に言い聞かせました。
後日、アフ音部の部長は、母国の神聖な音楽であの部室を浄化するために部員総出でもう一度行くと言い出しましたが、説得して思いとどまらせました。
あそこにはもう近寄りたくないし、できれば誰も入るべきでないと思うのです。
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5C-04
面白いけどデマ 隣だけど噂とか緘口令とか聞いたことがない
↑ハブられてただけの可能性あるよね
旧都市研究部部室から発見された怪談集 梶ノ葉 カジカ @kazinova
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