ゴミ捨て場おばさん

 投稿者:二年A組 人見直



 説明:対象は身長約一・六メートルで体重不明、マレー系の特徴を持つ年齢不詳のコーカソイド成人女性です。


 対象が観測されて以降、会話をはじめとした有意なコミニュケーションを記録した例は報告されていません。


 長さ一メートル前後の乱れた頭髪、白色または乳白色のワンピースもしくは入院着に近似の衣服、左手に携行した内容量七〇リットルの透明ビニール製の袋が特徴です。


 対象は午前一時から四時までの間、██県 ███市 ██区 ██町大字 ██ ██私立供米田高校裏門から ██丁目 ██〈 ██ビル本館〉までの直線距離約八〇〇メートルの区間で不定期に観測されます。


 対象の最も古い記録は██年 六月、当時大学生の ██ ██によって観測されました。


 対象は出現区間のゴミ集積所を周回するように移動し、特定条件に合致する残置物を発見した場合、携行したビニール袋へ収納する傾向にあります。


 対象の視認範囲で特定のアイテムを携行した場合、アイテムに対し強い関心を見せ、所持者に対し暴行を加えた上アイテムを窃取する異常性が報告されています。


 現在までに占有離脱物横領、遺失物横領、窃盗、傷害、器物損壊、建造物等損壊、公務執行妨害、信書開封、火気乱用その他複数の軽犯罪法違反、廃棄物処理法違反等で逮捕・勾留されました。


 二〇██年七月四日、暴行を受けた██町の住民の通報により地元法執行機関に逮捕された際、対象の所持品と住居内において対象が収集していたとみられる複数のアイテムが発見されました。


 ──発見されたアイテム(一部抜粋)


 大量のセルロイド製乳児人形

 キャラクターぬいぐるみ

 動物ぬいぐるみ

 大量の大小キャラクターキーホルダー

 軟質ビニール製着せ替え人形 

 ソフトビニール製怪獣人形 

 ネコ型ロボットキャラクターぬいぐるみ

 ダイキャスト製合体ロボット人形

 藁人形

 ファストフード景品忍者キャラクター人形

 軟質ビニール製キャラクター人形

 野球選手ボブルヘッド人形

 ソフトビニール製ガレージキット

 紙製人形

 土偶

 ブロンズ製裸婦像


 すべてのアイテムはコンディションが損なわれており、四肢に類する部位が一部あるいは全部消失していました。



 証言記録

 日付 二〇██年六月九日

 証言者  ██ ██

 [証言者は通常の会話時とは異なる特徴的な口調を使用した。この口調は証言中、終始継続した]


 私はその日、バイト先の仲間とゲームセンターとカラオケに行ってたんですがね?

 これがもう盛り上がってねえ、特にカラオケなんかは


 [対象に無関係なので中略]


 その時は三月も終わりごろだったんですが、とはいっても、夜中はまだまだ寒い。

 「うえー寒いなーううー」なんてやっていると、その道の先? 街灯の下に、なんか影が見えたんですよねえ。

 どうやら人影のようなんですが、様子がおかしい。

 電柱の影で、壁に向かってなにかごそごそやってる。

 飲みすぎた酔っ払いがね、気分が悪くなってんのかなーと思ったんですが、近づいていくと、どうもそうじゃないらしい。

 白っぽいような、薄い水色のようなね、ワンピースかなんか着た女の人のようなんですが、足がむき出しで裸足だったんですよ。

 そいで大ーきな、ごみ袋を持っていて、なにかを一生懸命詰め込んでるんですね。

 深夜〇時過ぎですよ。いずれにしてもまともな人間じゃありませんよね。


 その時一緒だった仲間、仮にA君としときますが、彼もそれに気づいたようで、「おい、あれなんだ? ちょっと変じゃねえか?」なんて言ってる。

 「そうだよなあ」なんて言いつつ、一本道ですからねえ、行かなきゃしょうがない。

 近づくのも不気味ですからねえ、距離を取って反対側の塀際を行こうとしたんですが……。


 横目で女を見ながら、そーっと歩いてたんですが、その時「ううーッ」その女が声を上げて、バッとこっちを振り向いた。

 ざんばら髪の痩せた女が、目をカーッと見開いてしっかりこっち見ている。

 ワンピースかと思ったそれは、病院の入院患者が着るような、いわゆる病院着だったんですよねえ。


 A君と二人、蛇ににらまれたようにその女と目が合ったまま、もう逃げ出したいですからねえ、ゆーっくり、壁を背にするように、足を進めて、一秒も早くそこを離れたかった。


 女が手に持っていた袋が見える。

 透明なビニール袋だったんですが、さっきそいつが詰め込んでたそれ、その中身はなんだかよくわからないゴミばかりに見えた。

 「うわーなんだこいつ、なんだってこんな時間にゴミなんて詰め込んで持ってんだ?」と思ったその時ですよ。


 女が「アアアアアア!!」と奇声を上げてこっちに走り出したもんだから「うわあああ!!」って私とA君、逃げようにもそんなに道幅広い道じゃありませんから、もうすぐ目の前に女の顔が迫ってくる。


 血走った目で私のほうを見たかと思うと、バーンと壁に突き飛ばされて、すごい力でしたねえ、地面に倒れてしまったんですよ。

 A君が「なんだお前! おい、警察呼ぶぞ!」って言ってる声が聞こえて、起き上がったときには、もう女の姿と、A君の姿がない。


 しばらくすると、少し先の路地からA君が戻ってきて、「だめだ、逃げられた。すごい速さだぞ」なんて息を切らしてる。


 彼はサッカーの経験がありますからねえ、足速いんだ。

 なのにその女? 一気に振り切って逃げてったってんですよねえ。


 「おい、なんだったんだあれ? 警察呼ぼうか?」なんてA君は言うんですが、私もケガはないし、気味が悪くて早く帰りたいんで、「いやもういいよ、帰ろう」って言ったんですよ。


 だけどもA君が「でもお前、あれはひったくりだぞ。いいのか?」って言うもんだから私がフッと見ると、それまで持っていた袋がなくなってたんですよ。


 私がその日ゲームセンターでゲットした、████のぬいぐるみが入った袋? それがない。

 A君が言うには、その女は一目散にその袋めがけて寄ってきて、私を突き飛ばしてひったくっていったんですよねえ。

 その後その女を見てはいませんが、なんだったんでしょうかねえ。


 そんな出来事がありましたねえ。ええ……。


 

 インタビュー記録

 日付 二〇██年六月一二日

 インタビュアー ██ █


 インタビュアー██:あの、すみません。


 対象:[無言]


 ██:なにしてるんですか?


 対象:[意味不明なつぶやき]


 ██:いまなにしてるんですか? 


 対象:[うめき声]


 ██:えーと、それ、ゴミ捨て場にあったものですよね? 勝手に持っていくのは犯罪ですよ。


 対象:カワイイ。[読経に似たうめき声]


 ██:え?


 対象:カワイイ、カワイイ。[対象はインタビュアーを横目でにらみつけ、背を向ける]


 ██:かわいい? かわいくても持ってっちゃだめなんですよ。ねえ。[対象の肩に手をかける]


 対象:カワイイ! カワイイイイイイ! [対象は目に見えて興奮し、インタビュアーを手で強く押す]


 ██:うわ、ちょっとやめてくださいよ! てめえ、こら!


 対象:[大声で意味不明な言葉を唱えながら走って逃走する]


 


 補遺:対象は二〇██年六月現在、██県 ███市 ██区 ██町大字 ██の〈ハイツ██〉に居住しているという報告がありますが、同名のアパートはすでに取り壊されていることが確認されており、報告者は不明です。




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 4-02



 なにこの街 やべー女が多すぎる


 収容違反だ! こうしちゃいらんねえ縺九∴縺励※縺九∴縺励※縺九∴縺励※縺九∴縺励※縺九∴縺励※縺九∴縺励※

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