火葬場
投稿者:無記名
お宅の 副部長をなんとかしてください!
あの人の変な評判のせいで一般の生徒は知らない人に絡まれるし、校外でもうちの制服ってだけで悪目立ちして迷惑しています。
学校からは地域の治安の問題にすり変えてアナウンスされてますけど、私は騙されません!
あと、E組の木皿儀さんがとても迷惑してるんです。
なんか格闘技? のスカウトみたいな人があの人と間違えて木皿儀さんに何度も声かけてきてかわいそうです。
木皿儀さんは体が大きくて目つきが鋭くてちょっと口も悪いからとっても強そうに見えるというか、絶対あの人より強いんですけど、本人が嫌がっています。
ガラの悪い男の人に絡まれてどれだけ怖い思いをしていることでしょう。
彼女は普通の女の子なんです。
本人は隠してるけど恋愛小説をよく買っているし、ウエストを気にしているし(芸術品のように完璧に引き締まっているというのに!)、甘カワなファッション誌を購読していることも私は知っています。
親が結構厳しくてあんまり遊びに付き合ってはくれないかわりに、断るときはいつも申し訳なさそうに謝ってくれます。
都市研の話が出ると彼女は露骨に眉をひそめてどこかへ行ってしまうこともあります。
あんなにいい子をどれだけ苦しめているかわかりますか?
あの人が好かれるのは、不本意ですがわかります。
頭おかしいゴリゴリの不良と聞いていたのに普通にいい人な感じでかわいいし、ふわふわキラキラしてるのにたまにちょっと強引さを見せてくるギャップに魅力があるのは本当に渋々ながら、心ならずも、万やむを得ず納得してあげてもまあいいでしょう。
他人に迷惑がかかるような危険行為を繰り返して、平気な顔をしているならまだしも本気で申し訳なさそうにしているのが理解できません。やらなきゃいいのに。
それでいて後悔している風でもないのが胸糞悪いです。
なんかの病気なんじゃないですか?
当然のように受け入れている周りの人間もおかしいです。
なんですかあの連中?
ファンクラブだか何だか知りませんが、わざわざ五メートルぐらいずつ距離取って「ここに偶然立ってるだけだが?」みたいなクソ白々しい演技してて邪魔すぎなんですけど。
ぶつかりそうでもやけに滑らかな動きでギリギリで避けられて逆に気持ち悪いし。移動で急いでるときは無駄にスラロームさせられてこっちがバカみたいになってむかつく。
部室に文句言いに行こうとすると決まって職員室から呼び出しとかわざとらしくバケツをひっくり返したりして通行止めで邪魔されるし、あれは絶対組織的な工作です。
そこまでして何がしたいの? 普通じゃないですよ。
あの人の話をしていただけで机に変なもの入れられたり嫌がらせを受けた子もいるんです。
これは本人がやっていることじゃないですけど、原因を作り出していることには変わりありません。
都市研副部長は大人しく普通の学校生活を送って、取り巻きを解散させてください。
ただでさえ留年してるんだから、さっさと卒業なり退学なりしてくれないと学校にも迷惑です。
怪談も書いといてやるからありがたく読みなさいよ。
これで無視できないでしょう?
友達のKさんの見守り活動の帰り道に起こった出来事です。
なにかと目立ってしまう彼女がまた変な男にでも絡まれたらすぐに通報できるよう気を配っていましたが、幸いなことにその日もKさんは格好良くて最高でした。
同じ生き物とは思えない力強さと気高さとしなやかさ、そして指先から髪先から零れ落ちる乙女らしい繊細さはすぐにでも国宝に指定し全国民で崇め奉るべきです。来るべき日までは私が一人で
その日も無事に帰宅するKさんを見送った後、偶然にも彼女のものらしき古着を入手することができた喜びでふわふわしていた私は、気づくといつも曲がる十字路を直進していました。
あのあたりは道が碁盤の目になっているのでどこかで曲がれば問題ないかと気にせず歩きました。
少し行くと田んぼに出るので、ひたすらに見晴らしがよく道に迷うということはありません。
しかし予想外にも、見たこともないぐにゃりと曲がった道に当たりました。
道の先には田んぼの真ん中なのになぜか木が生い茂っている一角が見えます。
周りを見渡すと綺麗にまっすぐな農道が何本か平行になっているのに、その道だけはまさにそこへ行くための道になっているようでした。
いつもの道から遠景として見ていた時には「あーそんなのあるかもね」と気にも留めていませんでしたが、いざ正面に捉えるとなんとも異質で、暗い木々の根元が大きな化け物の口のようにも見えて、足取りが鈍りました。
高校生にもなって森が怖いから引き返すのもバカらしいし、夕暮れにさしかかった時間だったこともあって不気味に見えているだけだろう、晴れた時に見ればきっと緑がまぶしくてきれいなものだと思いなおし、なるだけそっちを見ないように歩きました。
ちょうどその大きな木の下に通りかかったとき、顔のあたりになにかが当たるような感じがして、直感的にクモの巣かと思った私は前髪のあたりを払いました。
手を見るとそれは小さな羽虫のようで、払った拍子に潰してしまっていました。
目を向けずにいた木々の周りに大小の羽虫が飛び交っていたのです。そしてひどい悪臭が鼻を突きました。
田畑の中では肥料がにおっていたりするので気にしていませんでしたが、その悪臭は確実にその小さな森の中から漂ってきています。
思わずそっちを見ると、黒っぽい何かが地面に落ちているようでした。
その木が生えている部分だけ周りから一段高くなっているので、地面は腰くらいの高さです。
それは黒猫かカラスの死骸かと思いましたが、それにしては大きいのです。
黒いゴミ袋が平たく潰されて置いてあるようでした。
単なる生ごみの不法投棄ならさっさと立ち去るところですが、私はつい目を凝らして見てしまいました。
何故ならそれは薄暗がりの中で、ゆっくりと動いているようだったからです。
じっと見ていなければ動いていると気がつかないほどの遅さでしたが、確実に左から右のほうへ動いていました。
自然、視線がその進行方向へ向かいます。
その先には古びたレンガでできた四角い塊のようなものがあります。
ある日突然DIYに目覚めたうちの父親が庭に勝手に作って離婚の危機になったピザ窯に似ていました。
まだあたりは明るいのに、すぐ立ち去ればいいというのにどうしてか私は変質者にでも出くわしたかのように怖くて動けませんでした。
地面の下から足首を掴まれているようでした。
やがてその黒いものが動きを止め、真ん中がゆっくりと盛り上がり、こちらに振り向くようにねじれていきました。
「アーーーーーーーーーー」
それが声を上げるのとどちらが早かったでしょうか。私は全速力で逃げ出しました。
人間は本当に驚くと大した悲鳴も上げないのだと知りました。
せいぜい喉から自転車のブレーキのような音が細く漏れる程度です。
あれの形は黒くて平べったかったということ以外、よく覚えていません。
あとから自分の中で想像で作り上げたものかどうかわかりませんが、盛り上がった部分はたぶん頭でした。
一瞬だけ顔を見てしまったような気もしますが、はっきり見なくてよかったのだと思います。
後からKさんに聞いた話ですが、あの場所は戦時中から戦後間もないころまで使われていた古い火葬場だそうです。
Kさんもおばあさんにそんなことを聞いた気がするという程度なので本当かどうか自信はないということでしたが、あの四角い箱状の塊が焼却炉だと聞けば、ピザ窯っぽかったことも納得です。
その後の見守り活動の帰り道では気を付けて、もうあの道を通らないようにしています。
平行する別の道を通りながら、田んぼの向こうに見えるあの黒々とした木々を見るたび思うのです。
あれはまだあそこにいるのだろうかと。
以上です。
ちゃんと 副部長に注意しておいてください!
無視すればあなたも共犯者です!
そして木皿儀さんに謝罪させてください!
いいですね!
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9 没
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