命を賭してでも、手に入れたいものはありますか?

 そこに行けば、どんな夢も叶うという。
 どこかにあるといわれて、みんな行きたがる遥かな楽園。
 ただ生きることだけでも苦しさに満ちたこの世界で、多くの登山家がそこへ旅立ったが、
 その道のりは、あまりにも遠いものだった――。

 物語は、圧倒的に過酷な環境で幕を開ける。
 吹きすさぶ氷と雪、薄い酸素、極度の低温、生命の一切を否定する極地。
 ヒマラヤ山脈のエベレストよりも遥かに高い高度1万メートルに、少女・カレンはいた。
 そこが地球ならば、暴風が吹き荒れる対流圏の入り口であり、気温はマイナス50度にもなる。
 魔法の力を使っているとしても、常人にはたどり着けない死の世界だ。
 
 だが、彼女はその極限下でクレバスに転落、重傷を負う。

 (こんな所で、死ねない……!)

 少女の叫びを聞き届けたのは、フレイルとイリーナ、2人の登山家だった。
 
 「俺らに助けられる手立てなんてないぞ!」
 「嘘! あるでしょう! 一発限りのとっておきが!」

 この3人の出会いが、それぞれの運命と、世界を変える。

 なぜ世界がこうなったのか? 楽園とは何か?
 3人が命を賭して手に入れたいものは、そこにあるのか?

 ――楽園とは、心の中に生きる幻なのか。

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