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俺は拙生さんについていく。拙生さんは陰陽師の道具や妖関連の道具を売っているのを見たことある。
大きな通りから住宅街に入った。
歴史のある京都だから、趣がある日本の家屋もある。目を向ければ、現代的な一軒家やアパートもある。今は見慣れた風景だけど、何度見ても風情を感じるなぁ。古都の歴史も感じるものもあれば、今を感じさせるものもある。俺はこの雰囲気がすきだ。
目的の一軒家には、すぐ着いた。
俺の家と同じ二階建て、現代的な建物だ。俺がいくら陰陽師の流れを汲むと言っても、分家だから家自体が格式があるものじゃない。それでも、お祖父ちゃんから受け継いだ家だから大事していかないとならない。
拙生さんがインターホンを鳴らす。
鳴らしている間、俺は周囲を見回した。
玄関近くにある木の鉢植えが印象強い。
……少しだけ赤い葉に赤い木の実。見たことあるような、聞いたことあるような……なんだっけ。
木の葉とかありそうなのに、駐車場や玄関前は綺麗にされている。木の葉一枚もない。綺麗にしているな。二階建ての一軒家と駐車場というだけでそれなりのお金持ちの人が住むイメージがある。
インターホンには防犯の目的でカメラとスピーカーがあった。防犯意識は最新かも。スピーカーから男性の声がした。
《はーい》
「こんにちは。株式会社桜之花宮、羽山英明です。藤原さん。いつもの道具の売買をしに来ました」
《あっ、羽山さん! 時間どおりですね!》
「ええはい、今日は少々連れがいるのですが、同行させてもよろしいでしょうか?」
拙生さんはカメラに顔を合わせると、スピーカーの声がきょとんとしたものになる。
《連れとは》
「賀茂の子です。断絶にほぼ近いとある分家のお話に聞き覚えはありませんか。この子は将来有望で陰陽師になれる素質のある少年でしてね。その子に少々こちらの世界を見させたいと思いまして。陰陽師の社会科見学みたいなものですね」
《……なるほど、少々お待ちください》
と、スピーカーが切れる。俺の家の事、陰陽師の世界ではある程度広まっているんだ。まあ、そんな事はいい。それよりも……そっか、羽山さんか。
「拙生さん。羽山英明さんと言うんですね」
「ああ、それね。それで戸籍登録はしてるけど偽名のようなものだぞ」
さらりと言われ、俺は間抜けた顔になる。偽名って。拙生さんはサングラスをかけ直して、笑みを作る。
「拙生、これでも貴重な道具を色々持ち歩いては売ってるからさ。狙われる時もあるし、長生きだから偽名とか使ってるのよ。偽名で呼ばれたときは拙生さんじゃなくて偽名で呼んで。ここでは一応羽山さんで通しているからさ」
「……貴重なものって、たとえば?」
「例えば? うーん、貴重な宝石、ピンクダイヤモンド級のものをごーろごろと持ってます的な感じかな」
「ピ、ピンクダイヤ⋯⋯」
流石の俺も開いた口が塞がらない。
ピンクダイヤモンド。聞いたことある。宝石の中でもかなり希少でとてもお高いダイヤモンドだ。今はその取れるダイヤモンドの鉱山は閉鎖されている。だから、市場に出回ることは滅多にないと。
でも、ピンクダイヤモンド級ってオカルト側ではどんなもの?
「ピンクダイヤなほどに貴重なものって?」
「瑞獣の麒麟や白沢の角とか、八咫烏の羽とか鳳凰の羽とか。四神の鱗、羽と爪とか。そういうものの類かな。蓬萊の玉の枝。火鼠の裘とか龍の首の珠、燕の産んだ子安貝は簡単に手に入る。あっ、仏の御石の鉢はピンクダイヤモンド級かな」
さらりということではない。
蓬萊の玉の枝。火鼠の裘とか龍の首の珠、燕の産んだ子安貝。これらは竹取物語に出てくるかぐや姫が求婚者に出した難題だ。仏の御石の鉢以外のものが手に入る上に、ピンクダイヤ級ではないとは。
疑いたくなるな……。恐る恐るだけど聞いてみる。
「……眉唾とかではないですよね?」
「ご想像にお任せします。ほら、藤原さんがそろそろ来るぞー」
声をかけられて、俺は背筋を伸ばして姿勢を良くした。
ドアが開けられる。中からはおじさんが現れて、拙生さんを見て頭を下げる。
「羽山さん。いつもおおきにありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそお願いを聞いてくださり、ありがとうございます。
こちらが、賀茂家の血筋を流れをくむ賀茂朝飛くんです」
と紹介をされ、俺は頭を下げた。
「こんにちは。僕は賀茂朝飛と申します。羽山さんとの商談をお邪魔して申し訳ございません。お家の存続の為に、どうかこちらの世界の一片に触れさせてはくれませんか?
御迷惑かと思いますが……自分の為に少しでも学びたいのです。よろしくお願いします!」
と、それらしき理由を述べて深々と頭を下げてお願いをする。
一人称を俺から僕にしたのは、相手に失礼がないようにしたいからだ。迷惑をかけたら、俺の目的が遠ざかってしまう。
藤原さんは俺を見ながら悩ましそうに声を出す。
「……霊力がそれなりあると大変だよな。しかし、賀茂さんは自分の代で陰陽師は終わらせると風の噂で聞きましたが」
「ええ、ですが、陰陽師にならなくとも、せめてこの子には自衛の術を教えて上げたい」
……まあ、うん。俺は陰陽師になりたい気はあるけれど、この先生きるとなるとならなくてもいい職業ではある。でも、妖怪や幽霊から狙わぬように自衛はしたいし、生きるうえでほんの少し必要な知識だけでもほしい。
「わかりました。賀茂くんもどうぞ」
「! ありがとうございます!」
拙生さんの言葉に納得したのか、俺をみて藤原さんは快くお願いを聞いてくれた。俺は嬉しくて頭を下げた。
藤原さんのリビングに案内される。
和風のお部屋って少なくなっていると聞くけれど、居間は畳のある和室だ。赤色の置き物や白の蛇の置物が別の位置に置かれているのが見えた。黄色の和柄のテーブルクロスがかかっていた。
お茶とお菓子が出されると、俺は拙生さんの隣に座る
藤原さんも座り、俺に自己紹介をしてくれた。
「藤原心玄と言う。一応陰陽師家の血筋でもある。ほな、よろしゅう」
「よろしくお願いします。藤原さん」
頭を下げて、藤原さんに挨拶をした。拙生さんは手慣れたように頭を下げ、何枚かの書類とカタログらしきものを渡す。
「藤原様、いつもをご利用いただきありがとうございます。こちら、いつもの発注と契約内容と幾つかの事項。そして、呪物のお引き取りでよろしいですね」
「……えっ、呪物……!?」
驚いてしまい、目線が俺に集中する。
あっ。
「す、すみません」
「ええよ、初めての反応なら仕方ない」
頭を下げると、藤原さんは快く笑って許してくれた。藤原さんは拙生さんに頭を下げる。
「羽山さん、ありがとうございます。内容を確認いたしますね」
拙生さんの何枚かの書類とカタログを受け取って、藤原さんは書類を見る。赤字で書かれている項目がいくつかある。
……顔が熱い、恥ずかしいな。恥ずかしいけれど、俺は縮こまりながら挙手をしながら質問をする。
「あの恐縮ですが、呪物の引き取りについて詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか……?」
藤原さんに向けて聞く。
拙生さんが道具や物を陰陽師関連の人に売っているのは知っている。でも、拙生さんが呪物の引き取りをしているとは知らなかった。俺の質問に関心を示してくれたのか、藤原さんが教えてくれた。
「羽山さんは金額に応じて呪物を引き取ってくれるんだ。とんでもない呪物の場合は陰陽師の協会を通すが、個人を脅かすものであるならば引き取ってくれるんだ」
「それに、こういう呪物処理の案件を引き受ける業者は少ない。私のような存在が引き受けるんだ」
一人称が拙生ではなく、私となった。
偽名を使っているくらいだ。使い分けているのだろう。けど、拙生という一人称は文面でしか見ないとネット情報にあった。あまり使わないのだろうな。って、余計なことはいい。
「……確かに、呪物処理をしそうな人はいなさそうです。人手不足ですか?」
一応現実で対応しそうな理由を述べると、藤原さんは首を横に振る。
「人手不足というよりかは、やりたくない人間の方が多いんよ。適性のある人間という条件をつけるともっと狭まる。呪いの中にはウイルスや細菌のようなものがあるから、専門家じゃないと危険なんだ」
「なるほど……」
確かに呪いの専門家じゃないと呪物の解体なんて無理だろう。
医学も、建築も、多くの分野には専門家のように詳しい人じゃないとその分野で活躍や仕事などできないだろう。そう考えてみると、拙生さんのしていることって本当に専門的なんだな。
「その点、羽山さんの方はどんな呪物でも祓ってくれるし、取り除いてくれる。
代金はかかるけど、かなり信用できる」
藤原さんは拙生さんをみて褒め、褒められた本人は謙遜した。
「いやはや、私達のできることはこのぐらいですよ。さて、そろそろ発注した呪具と霊具を出してもよろしいですか?」
「ああ、そうだった。では、よろしくお願いします」
拙生さんに言われて、藤原さんは頭を下げる。
俺もつられて頭を下げた。
古都の陰陽道具訪問販売人 拙生さん 〜呪物もお引き取りいたします〜 アワイン @HanYoMe09
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