優しく美しい異類婚姻譚

――これはまだ、いたるところにあやめも分かぬほんものの闇があり、月はそのぶん皓々こうこうと光り輝き、岩のような熊から芥子粒けしつぶほどの蟲むしまでもが、ときに人語を解し摩訶不思議な力を持っていたころのお話です。


この美しい出だしから入る、蜘蛛の乙女クラウディアと人間の猟師アレクシスの異類婚姻譚です。

猟師のアレクシスはある日水たまりでもがく蜘蛛を助けます。そしてその夜、美しいひとりの少女が訪ねてきました。
「あなたに抱いていただこうと思って」
少女は助けた蜘蛛だったのです。やがてアレクシスとクラウディアは惹かれ合い共に暮らし始めます。幸せな日々は長く続くように思えましたが――。

言葉選びがとても美しい、そう思いました。文章を読んでいると、脳裏にその光景が思い浮かぶようでした。

蜘蛛と言うと苦手な方もいるかもしれませんが、その描写も可愛らしく、最初からクラウディアに好印象を持ちました。
素直で朴訥なアレクシスにも好印象を持ち、作者さまのキャラクター造形の旨さが光りました。

幸せなふたりになにが起こるのかはご自身でお確かめ下さい。

お話から溢れ出る優しさと、その美しさにきっとため息をつくことと思います。
そしてきっと、蜘蛛が少し好きになっていると思います。

ぜひ読んで見てください。
オススメ致します…!

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