言葉と視線が仕掛けるサスペンス――“灰色の悪魔”の誘惑

 静かで冷たい語り口の奥に、じわじわと不安が染み込んでくる作品でした。

 派手な事件描写に頼らず、言葉や視線、選択の積み重ねだけでここまで読者の心を追い詰めてくる感性が鋭いです。善悪が単純に分けられない人間の弱さや、知識と理性が持つ怖さが、高校生の視点で丁寧に描かれていて、読み進めるほど背筋が冷えました。

 読み終えたあと、「本当に恐ろしいものは何か」を自然と考えさせられます。心理描写が好きな方、人の心の闇や知性の影を描いた物語が好きな方、短編でも強い余韻を味わいたい読者に、ぜひおすすめしたい一作です。

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