怪物的知性との遭遇譚──「毒そのものとの契約」

これは完全に商業レベルではないでしょうか…?

舞台はごく普通の高校、化学準備室。そこで出会うのは、ビーカーで黒い液体を飲みながら太宰を読んでいる、灰色の瞳の少女・階上渚です。

彼女こそが“毒薬嬢《フロイライン・ギフト》”であり、この物語がまさに「怪物的知性との遭遇譚」であることを、読者は読み進めるうち、すぐに思い知らされます。

いじめられている少年が、ひそかに「仕返し」を願う――動機だけ切り取ればどこにでもある弱さです。

しかし、この作品が恐ろしくも美しく感じられるのは、その弱さが、階上渚という存在によって「毒そのものとの契約」に変わっていく過程です。

冷徹。なのに魅惑的。

特筆すべきは、文章の語彙のビビッドさです。
こういう物語にありがちな「説明的になりすぎる」ことがまったくなく、比喩や言い回しが鋭く立ち上がっています。

このように、言葉や文字だけで“空気そのもの”を錬成していく筆力は、そうそう見られるものじゃありません。

灰色の瞳、静かな化学準備室、交わされるやり取りの温度――それらが読むわたしの内側に、じわりと、まさに「毒」のように染み込んできました。

この物語は、静かに、確実に読者の倫理観と感情を試してきます。
そしてラストには──?

あの出会いは救いだったのか、それとも破滅の始まりだったのか。
ちなみにわたしは、頁を閉じたあとも、自分の中の答えを、ずっと決めきれずにいます。

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