君は胃カメラを飲んだことがあるか?

mahipipa

数年前の顛末

 君は胃カメラを飲んだことがあるか。私は今日ついに飲んだ。

 胃腸が弱く、常々胃の膨満感に悩まされていた私は、後顧の憂いを断つべく胃カメラで中を調べることにした。


 これでダメだったら胃薬飲もうねという話である。

 そんなこんなで、胃カメラを初めて飲んだ衝撃が薄れぬうちにレポートにしたためる次第である。


 生まれて初めての胃カメラ当日。すでに行列のできた病院へ行く。大人気である。

 入り口に入ったところで名前を呼ばれ、行列から隔離される私。

 隣には同じ境遇と思しき女性がいた。道具も二人分並んでいて親近感シンパシーが同伴してくれている。


(これが麻酔か……どうなるんだろう?)


 私が先ということで、早速、荷物を置いて洗面台に立った。ガス抜きと麻酔である。


 まずは紙コップに入れられた若干とぎ汁めいた液体を飲む。


(む゛ッ!!)


 おいしくない。これで胃のガスを抹消できるらしい。おいしくない。

 特に味があったわけではないが、絶妙に薬品の匂いがする。多分消泡剤的サムシングだろう。


 風味がよくない液体を飲み、一息つく間もなく次の液体が運ばれる。

 透き通ったオレンジの綺麗な液体。これが麻酔だ。

 ガスでも注射でもなく、これを口に含んで三分うがいを敢行する。息継ぎ可。

 また、息継ぎがしんどい時はコップに戻しても良いということで、適量を口に含んでうがいを始める。


(苦ッ!!)


 開始数十秒。口の中が怪しくなってくる。動くことは動くが、しびれを感じ始める。

 麻酔ってやっぱポイズンよねーなんてことを思いながら、タイマーが鳴るまでうがいを続ける。

 徐々に怪しい感じが口いっぱいに広がってきて、頬をもにゃもにゃと動かしたくなってくる。


 飽き始めた頃にタイマーが鳴った。よかった。



 さて、いよいよ胃カメラが待つベッドへと進み、横たわる。

 ぴんと身体を伸ばして横たえるのではなく、猫背がGOODらしい。

 喉を開いた感じと言われて過去の合唱の練習など思い出す。


 きつかったなあ、V字バランスで歌う練習~。

 そんな走馬灯とは裏腹に容赦なく上昇するベッド。ついに出現する胃カメラ。


 急に真顔かつ丁寧になっちゃうんですけど、胃カメラの先っぽってぴかぴかしてるんですね。びっくりしました。

 そりゃそうか、写真で見る分には明るいけど、そもそも胃は暗いんだ。そうだわ、胃は暗いんだわ……そうだわ……。



 というわけで、納得の上で胃カメラが入ってくる。


「お゛……」


 最初が一番しんどい! 明らかな異物が! 5ミリ程度の管が入ってくる!

 抵抗する身体! 意思とは関係なく痙攣する肉体! 静まってくれ我が身体! ちょっとだけだから!!


 半泣きだったが、実はこれ以上はそんなに苦労はしなかった。じっとして、喉を開くことに集中していたからかもしれない。

 カメラは枕の上の方にあるため、私は上を見た。


(あ~、これが私の中身かぁ……)


 おお、我が身体の中がつまびらかになっていくという斬新な喜びがあった。

 食道を通り、十二指腸を確認される。問題なし。適宜写真を撮りながらメインの胃の方へと移動していく。


 うわ。シワだ。胃にシワがある!

 抽象化されたイラストばっかり見ていたが、そう、胃にはシワがあるのだ!


 食べ物が入って伸びるのだから、それはそうかという感想だ。

 実際ナマで見ると、新たな発見というか再認識というか、そういう感覚をひしひしと覚える。


「空気入れますねー」


 ああーっ。日頃、膨満感に苦しむ胃に、無慈悲な空気が送られる。シワが伸ばされていく。

 シワの裏側に病巣とかあったら大変だからね。幸いにしてそんなものもなかった。セーフ。


 ところでこの時、私は口を開きっぱなしにするためプラスチックの器具をくわえ続けていた。

 そして、力なく身体を横たえている。

 ついでに、画面はベッドの上の方だ。


 終始白目を剥いて涎を垂らし、時折びくびくと痙攣するゾンビ真っ青のムーヴをかましながら、私は自らの身体のうちを見ていたわけである。


「はーい、じゃあ進めますねー」


 コツ。


(ン゛ッ!!)


 若干、胃カメラが底に当たったような違和感があった。びくっとする我が身。喉がひくつくが、耐える。

 胃に触感ってあったっけなどと考えたりしながら、思ったよりはマシな胃の様子を眺めることしばし。


「はーい、終わりですからねー。胃カメラ抜きますよー」


 意外とあっさりと、胃カメラは終わった。曰く、今のところ問題はないが、繊細な胃なので大事にするようにとのお達しだった。

 ついでにピロリ菌がいるとよくないので、血液検査もした。ブスリ。


 一週間後、再び病院に来て結果を受け取らねばならない。やむなし。きちんと予約を取ろうね。


 ……といったところで、初めての胃カメラ体験は無事終了したわけである。



 ちなみに胃カメラが終わったからといって、すぐ飲み食いできるわけではなく、口が麻酔効果でもにゃもにゃしている間はダメらしい。一時間は間を開けることと説明された。プリントにきっちり時間も書かれた。


 とはいえ、昨日の指定時間から何も食べていないので、何か胃に優しいものは食べねばと考えてはいた。

 何がいいかな、家に何があったかな。コーヒー牛乳あったなあ。

 私は口腔を満たす猛烈な違和感に舌を動かしながら、帰路についたのであった。


 夏の日差しが迫ってきて、今日も暑くなるらしかった。

 めでたしめでたし。

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