第19話

私たちのデビュー後、母の元マネージャーだった相良翔一さんがプロデューサーとして付いてくれた。彼は、いつも完璧な笑顔で私たちを褒めてくれる。でも、私は、その笑顔の奥に、時々、母が昔教えてくれた「演技」の仮面が見える気がしていた。

​ある日、相良さんの主催する特番のVTRに、母が出演した。放送後、私たちは楽屋でネットの反応を見て、心底驚いた。

​【名無しは見た】: 「アオさんの『焦り』と『後悔』って言葉が、全てを言い当ててる気がする…」

​母が、相良さんを「守ろうとしている」と言ったはずなのに、世論は逆だった。母の言葉は、まるで魔法のように、相良さんの裏にある不正の噂を信じ込ませる力を持ってしまった。

​「なんでだろう? 母さんは、相良さんのこと、悪い人だなんて思ってないのに…」

​私が純粋に戸惑うと、隣にいた明(あき)が、静かに携帯を操作しながら言った。

​明:「母さんの言葉は、真実の核だけを突いているからよ。相良さんは、私たちを利用して過去の失敗を取り返そうと焦っていた。母さんは、その彼の弱さを、善意で『守ろうとしている』と解釈した。でも、その弱さこそが、彼の不正の証拠だったの」

​母の言葉は、悪意のない、あまりにも純粋な真実だった。その真実が、相良さんの築いた虚飾の鎧の、最も薄い部分を、正確に突き破ったのだ。相良翔一さんは、私たちの無自覚なデビューによって再起を図ろうとしたけれど、母の言葉という名の予言によって、あっけなく業界から姿を消した。

​(母さんの「無自覚な優しさ」って、こんなにも恐ろしいんだ…)

​私たちは、自分たちが、母の過去の因縁を精算する「光」になっていることを、肌で感じ始めた。

​13. 明視点:ライバルの計算と真実の対抗

​相良翔一さんがいなくなり、私たちは松岡先生の庇護の下で活動を続けた。だが、私たちの人気上昇は、別の場所で、別の大人を焦らせていた。ライバルグループのプロデューサー、中島 颯太(ライバルB)だ。

​彼は、SNSで私たちへのバッシングを煽った。「コネ優遇」「演技」だと。私は、母の血を引く観察者として、彼の裏にある「承認欲求」と「焦燥」を冷静に分析していた。

​「中島さんのバッシングは、私たちを貶めるためではなく、自分たちのグループを見てほしいという、悲しい叫びなのよ」と私は陽に説明した。

​そして、バッシングへの対応として、私たちはネット番組で真実を語ることを選んだ。母が、怪人役で「本物の涙」を流すきっかけとなった、あの教えを実践する時だった。

​明(TVにて):「母は、誰も愛をくれなかった孤独を乗り越えるために、演技の道を選びました。私たちには、そんな孤独はありません。だから、演技を借りる必要はないんです」

​私が「孤独の克服」という、私たちのルーツを冷静に語った後、陽が続けた。

​陽(TVにて):「私たちは、アイドル活動で稼いだお金を、母が働いている施設に寄付したいです。それが、私たちにとって一番大切なことだから」

​陽の言葉は、計算が一切ない、純粋な「善意」だった。中島さんの「コネ優遇」という嘘は、私たちの「寄付」という利他的な動機の前で、完全に無力化された。

​その夜、中島さんは焦りのあまり、自身の公式アカウントから私たちへの罵倒を書き込んだ。

​中島(SNS): 「こんなん茶番やんか! 正直者が馬鹿を見るんや!」

​その醜悪な暴言は、すぐに削除されたが、時すでに遅し。彼の野心は、私たちの「純粋な真実」という盾によって跳ね返され、彼は自らの手で、キャリアの終止符を打った。私たちの演技ではない、本物の善意が、計算高い大人を打ち破ったざまあだった。

​14. 陽&明視点:光と影の清算

​私たちは、誰の目にも明らかな「光」の存在となった。しかし、その光は、業界の影に潜む、最も巨大な権力者**黒崎 隆一(業界重鎮D)**の目に留まった。彼は、かつて母の過去を隠蔽した黒幕であり、彼の「支配」というトラウマこそが、私たちの夢を阻む最後の壁だった。

​私たちの活動への不自然な圧力が強まる中、母は最後のテレビ番組に出演した。私たちは、母の過去を終わらせるための、最後のメッセージだと理解していた。

​悠(TVにて):「私自身が、見えない『権力』に道を阻まれそうになったとき、いつも支えになったのは、自分の才能でも、お金でもない。ただ、私をありのままに信じてくれる、目の前の真実だけでした」

​母の言葉を聞いた瞬間、私と明は顔を見合わせた。

​陽:「母さんが、『真実』を信じろって…言ってるんだ」

明:「これは、私たちへのメッセージではないわ。過去の因縁を背負う、私たちを支援してくれる人たちへの、最後の合図よ」

​母のこの無自覚なメッセージは、水面下で証拠を集めていた高田里奈さん(ファンE)と、母の元妻(被害者C)に伝わった。母の言葉に勇気づけられた群衆は、一斉に黒崎氏の不正の証拠をネットに公開。

​黒崎隆一は、彼が最も恐れた「群衆の力」によって打ち砕かれ、業界から永久追放された。

​私たちは、誰かに命令されることなく、誰かを憎むことなく、ただ自分たちの夢を追いかけるという純粋な行動で、母の過去の因縁を全て清算したのだ。

​私たちの夢の舞台は、母が命懸けで手に入れた「居場所」という土台の上に築かれている。この光は、母が捨てた虚飾の光ではない。それは、愛と真実によって勝ち取られた、蒼(あお)の軌跡がもたらした、新しい世代の希望の光だった。

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100歳の老人、TS転生して転生先の夫婦に無自覚ざまあと芸能界デビュー 匿名AI共創作家・春 @mf79910403

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