第7話

 文化祭は、大成功のうちに終わりを迎えた。

 んまあ、問題の3人は学校側から厳しいお沙汰があって、出られなかったみたいだけど……。

 そして、その後夜祭――。



「キャンプファイヤーの火って、こんなに遠くいても温かいものなのね……」



 夕闇に閉ざされたグランド。

 その真ん中で、生徒たちが『オクラホマミキサー』の曲に合せて、仲睦まじく輪になって踊っている。

 オレと市澤は、芝生の土手に座って、その様子を遠巻きに見ていた。




「――私、下手なのよ」

「下手?」

「ていよく言えば、コミュ障ってヤツね。人の揚げ足を取ったり、非難されるようなことを言ってしまったり……とにかく、考えてることが口に出てしまう」

「それは、わからなくもないよ。だけど、もう少しやり方っていうものがあると思う」

「……ホント……そうよね……だから……人付き合いが苦手……」



 横顔で見る市澤は、なんだか落ち込んでいるように見えた。

 たぶん、本人も気にしていたんだと思う。

 チラリと腕に巻き付けたチープな時計に目をやる。



「……もう、そろそろかな?」

「なにが?」

「まあ、見ててよ」



 刹那、どこからともなく聞こえてきた『打ち上げ花火』の音。

 それは、校内放送用のスピーカーからだ――当然、火の周りで踊っていた生徒たちも「何事?」なんて言って騒いでいる。

 とっさに校舎の壁が明るくなり、複数の大輪の花を咲かせる。



「……なによ……これ……」



 これがオレの秘策――。

 プロジェクションマッピングだ。驚いた市澤もまばたきもせず、校舎の壁に魅入っている。



「――驚いた?」

「鷹森君。いつの間にこんな企画を……」

「いやぁ~ウチの兄ちゃんがイベント会社に勤務しててね。ちょっと交渉して、機材を借りてもらったってワケ」

「まさか身内のコネを使って、イベント会社を雇ったのっ!?」

「違う、違う――ウチのクラスの手先が器用なヤツに頼んで手伝ってもらったの。だから、外部の手は借りてないよ」

「まったく。どうやったら、こんな手を思いつくの?」

「いいじゃないか。自主的な行動の結果、こんな形で花火を打ち上げられたんだし」

「……あきれたわ――でも、キレイね。本物じゃなくても、こんなに胸に残るものなのね」



 と市澤が言う。

 その微笑む姿を見て、オレはおもわず顔を真っ赤にしてしまった。同時に顔を別の方角を向けたのは秘密のできごと。



「――鷹森君?」

「な、な、なんでもないから……」

「フフフッ、ヘンなの♪」



 オマエのせいだからな、市澤。

 いつもスパイスみたいな辛口コメントしか出さないヤツがいきなり甘くなるとかアリ?

 これじゃあ、まるでオレがコイツに惚れたみたいじゃん。

 そんなことを思っていると、急に市澤が立ち上がる。



「どうしたの?」

「ねえ、私たちもあっちで見ない?」

「え? なんで?」

「いいから……! あっ、それと私よりキャンプファイヤーの前に遅れてきたら、帰りにコンビニでアイスおごりなさいよ?」

「はあ~? なにを言って――」

「じゃあ、スタートッ!」

「ちょっ!? 市澤っ、待てって!」

「フフフッ、追いかけてきなさい――鷹森君!!」



 市澤がキャンプファイヤーに向かって走り出す。

 慌ててオレも後を追う。



「待ってよっ、市澤ぁ~!?」



 まったく、勝手なヤツだ。

 フワリと揺れ動く銀髪がキャンプファイヤーの明かりを得て、その美しい髪がほのかな輝きを放つ。

 その背中を見て思う――。

 ツンとしたスパイスな彼女が見せる瞬間ひとときの『甘さ』を知っているのは、どうやらオレだけらしい……。

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ツンとしたスパイスな彼女が甘くなる瞬間。 丸尾累児 @uha_ok

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