絶対に調べてはいけません。

◇◆◇


山本彩花(仮名)は、スマホを見下ろして鼻で笑った。


「……なにこれ。作り話でしょ」


深夜一時。

ベッドの上。

部屋の電気は消して、画面の光だけが顔を照らしている。


カクヨムで偶然見つけた投稿小説。


タイトルは――


カリギュラ効果


『絶対に開けてはいけません』


最初はよくある学校怪談だと思った。


ロッカー。

貼り紙。

消えた生徒。


「はいはい、ありがち」


そう思いながらも、指は止まらなかった。


怖いのに、

続きが気になる。


“禁止されるほど、知りたくなる心理”。


――カリギュラ効果。


「……名前出してくるの、ずるくない?」


物語の中でその言葉が出た瞬間、

彩花は少しだけ背筋を伸ばした。


自分が今まさにそれにハマっていると、

気づいてしまったから。


そして、読み終えた。


最後の一文。


——気をつけろ。その紙を読む“あなた”にも、興味が芽生えている。


「……だから創作だって」


そう呟きながら、

彩花は検索欄を開いていた。



◇◆◇


【絶対に調べてはいけません】

【カリギュラ効果 続き】


……そんなワードは存在しないはずだった。


なのに、検索候補の一番上に、こう表示された。


『絶対に調べてはいけません|続き』


「え?」


一瞬、指が止まる。

心臓が、妙に強く打った。


(変なの……こんなの、出てくる?)


でも。

“ここまで来て、やめる方が気持ち悪い”。


その感覚が、

じわりと胸の奥で膨らんでいく。


「……ちょっと見るだけ」


そう言って、

彩花はタップした。



◇◆◇


画面が、真っ白になった。


読み込み中の円が、くるくる回る。


……長い。


「フリーズ?」


そう思った次の瞬間。


白い画面の中央に、

黒い文字が一行だけ浮かび上がった。


『あなたは、どこまで知りたいですか?』


「は?」


いたずらサイトだと思った。


でも、戻るボタンが効かない。

電源も落ちない。


代わりに、

もう一行、文字が増える。


『途中でやめた人はいません』


背中に、ぞわりとした感覚が走った。


「……や、やめるって」


声に出したはずなのに、

その声が、少し遅れて耳に届いた。


まるで、

自分の声じゃないみたいに。


次の瞬間。


画面が切り替わる。


そこに映っていたのは――


学校の廊下。


見覚えのないはずの場所なのに、

なぜか“懐かしい”。


廊下の端。

一番下のロッカー。


そして、白い紙。


黒いマジックで、こう書かれていた。


『絶対に開けてはいけません』


「……嘘」


彩⁇?花は震える指で画面を拡大した。


すると、紙の下に、

小さな文字が追加されていることに気づく。


『※すでに“こちら側”を見ているあなたへ』


呼吸が浅くなる。


胸の奥が、きゅっと締めつけられる。


そのときだった。


――コン、と。


自分の部屋のどこかで、

金属を軽く叩くような音がした。


「……え?」


耳を澄ます。


もう一度。


――コン。

――コン、コン。


音は、

部屋のクローゼットの方から聞こえていた。


心臓が跳ねる。


(やだ……偶然、だよね)


スマホを見ると、

画面の文字が変わっていた。


『開けなくてもいい』

『でも、見たくなる』


その瞬間、

彩⁇?⁇ははっきりと理解した。


これは呪いじゃない。

強制でもない。


ただ、“興味”を与えるだけ。


選ぶのは、

いつだって人間の方なのだ。


――カリギュラ効果。


「……ちょっとだけ」


誰にともなく、そう言った。


立ち上がり、

クローゼットの前に立つ。


取っ手に、指をかける。


その瞬間。


スマホが震えた。


画面いっぱいに、赤黒い文字。


『ようこそ』

『次は、あなたの番です』


カチリ。


クローゼットの扉が、

内側から――開いた。



◇◆◇


翌朝。


⁇?⁇?は、学校を休んだ。


理由は「体調不良」。


クラスメイトの誰も、

それを不思議に思わなかった。


ただ一つだけ。


彼女の机の中に、

白い紙が入っていたことを除けば。


黒いマジックで、こう書かれていた。


『絶対に調べてはいけません』


そして、その文字を見た誰かの胸に――

小さな“興味”が芽生えた。


それが、すべての始まりだと知らないまま。



◇◆◇


——物語は、ここで終わる。……だが。


もしあなたの視線が、

ほんの少しでも検索欄へ向いたのなら。


もう、

この話は“読了”では済まない。

参加なのだ。


気をつけて。


禁止されているものほど、

人は一番、触れたくなるのだから。


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カリギュラ効果 αβーアルファベーター @alphado

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