序章
第5話 悪役令嬢は支部長と話す
---現在-----
「あぁ〜。思い出した。」
思い出すべきじゃなかった気もするが……。
目を手で覆い隠しながら思いにふける。
腰回りには今も支部長の孫であろう幼い女の子が抱きついてきていて、頭の上には彩奈さんの手がある。
これは聞きたくはないが、聞かなければならないだろう。
この2人に聞いても、この様子じゃ分かりやすい回答はないだろう。ここで聞くべき相手は…。
「………支部長。……俺…今どうなってる?」
何かの間違いであってくれ!と願いながら質問する。
口に出した俺の声はやけに声が高く耳馴染みないもので、嫌な予感がし、胸の鼓動が早まる。
「……女の子だな。」
………
「……もう一回、聞いてもいいか?聞こえなかった。」
「随分可愛らしい女の子だ。多分将来はさぞ美人になると思うぞ。夢が叶ったようで幸いだ。おめでとう。」
「…………フッザッッッケンナッ!」
支部長に向かって突進し、腹を殴りつける。
顔面殴ろうとしたが、身長が足りず代わりに腹だ。
だが、びくともしない。
「わ、悪い。ついどう反応していいかわからなくて、からかう様な言い方をしてしまった。…すまん!」
支部長にしては珍しく戸惑った様な風に言う。
そんな事言われてもこのやり場のない戸惑いをどうすればいいんだ!
「あんたが公私混同して職場に家族なんて連れてくるからこうなったんだろうがぁぁ!!客が居る時ぐらい支部長室に入れないようにしろよぉぉ!……ゔゔぅ~ゔ〜!」
やばい。涙が出てきた。くっそ!
「す、すまん。…な、泣くな。その姿で泣かれると…な……。」
「うっさい!死ぬ!」
オドオドしている支部長の股間にストレートをぶち込む。
「おま!……それは卑怯だぞ……。」
悶絶するように崩れを落ちるおっさんを尻目に振り返る。
「お姉ちゃん大丈夫?」
「ごめんなさい夕貴さん。つい、夕貴さんにとっては大変な事態なのに……すみません。」
彩奈さんと支部長の孫が話しかけてくる。
彩奈さんは何処となく反省した雰囲気だ。
こんな幼い女の子に八つ当たりしても仕方ないし。
「とりあえず夕貴さん。ステータス確認してみませんか?一時的なものかもしれませんし。」
……たしかに。一縷の望みをかけてステータスを確認する。
「ステータス。」
-------------------
氏名:unknown
年齢:12歳
性別:女
ジョブ:【悪役令嬢】
ジョブレベル1
基礎ステータス
体力値 161 (161)
魔力値 238 (238)
攻撃値 16(16)
防御値 9 (9)
魔攻値 17 (17)
魔防値 10 (10)
敏捷値 15 (15)
【剣術Level0】【闇魔法Level0】【貴族Level0】【悪人Level0】【儀礼Level0】
スキル
【女性化】【若返り+6】【
魔法
【練習大好き】
-------------------
あった…。
震える手で詳細を確認する。
-------------------
【女性化】
このスキルの持ち主を女性に変化させた後、このスキルは消滅する(効果発動中)
【若返り-6】
このスキルの持ち主の年齢を若返りさせた後、このスキルは消滅する。このスキルは熟練度が足りず十全な効果を発揮出来ない。(効果発動中)
-------------------
(効果発動中)と書いてある。
それを見て改めて自分の体に意識を向けると、今も些細ながら体が変化しているのを感じる。
「『願いは口に出して言葉にすれば抽象的な言い方でも問題ありません』って、ステ神様は言ってたが、まさか性別を変えることすら出来るとは……。確かにステータスに記載はあるけど…。」
ステータスウィンドウを見つめながら呆然とする。
「あっ!」
そうこうしてるとステータスから【女性化】と【若返り】のスキルがなくなった。
俺の姿は元に戻らない。
そんな俺の雰囲気から察した彩奈さんが話しかけてくる。
「夕貴さん何と言ったらいいか……とりあえず落ち着く時間を作るのが良いんじゃないでしょうか?」
「そう…ですね。帰ります。」
帰ろうとしていると悶絶していた支部長が立ち上がる。
「ちょっと待て。あ~痛ってぇ!…。言わんとならん事があるが……少し時間くれ。」
股間を押さえながら呼吸を整えている。
「はぁ。思いっきりやりやがって…。まあいい、夕貴!お前、今回のアイテムで若返えって性別が変わったのを家族以外に言うなよ。どうしても言う必要があるなら言ってもいいが、相手を選んだ上で詳しいことは内密にしておけよ。」
「はぁ!?なんでだよ。学校通ってんだぞ?どう説明するんだよ。」
そもそもなんで黙ってる必要があるんだ?
「お前がその姿になって倒れている間に俺の【人物鑑定】スキルを使ったが【女性化】【若返り】なんてスキルは初めて確認されたスキルだ。どっちもやばいスキルだが、特に【女性化】はやばい。」
「そりゃ、やばいだろ。こんなことになるくらいだからな。」
「そうじゃねぇ。性別が変わるってことは犯罪者が身分を偽ったりする事が容易になるって事だ。【変身】なんかの見た目を変えるスキルもあるが、あれはスキルを解除させれば本人確認は可能だからな。
【若返り】の方もだ。今まで【若作り】や【童顔】みたいな、見た目を若く見せたりするものはあったが【若返り】はステータスの年齢の項目まで若くなってる。それって寿命そのものが延びたってことだろう?世界中の億万長者が目の色変えて欲しがるスキルだろ。
【気まぐれな神の転生石】がそんな効果が得られる可能性があるアイテムとなると少しダンジョン協会が揺れかねん。まあ、レア度9のアイテムがそう簡単に再び発見されるとも思わんが………。」
なるほど、俺にとっては良くない結果をもたらした【女性化】も欲しい人にとっては喉から手が出る程に欲しいものってことか。
「今回はお前の願いがそれになったが、今後【気まぐれな神の転生石】を使う人間がもっと悪用できる願いが叶う可能性が大いにある。それを求めて違法な探索や無理な依頼が頻発しかねん。俺の想定より【気まぐれな神の転生石】がやばいアイテムだった。日本ダンジョン協会の上層部で話し合ってからにはなるだろうが、国際ダンジョン条約の指定管理アイテムに指定されることになるだろう。それまで世間に無駄な混乱を起こしたくない。」
指定管理アイテムは主に世の中に流通させるには危険度が高いアイテムが指定されている。
これらのダンジョンで入手して持って帰ってきても、ダンジョン協会に強制的に買い上げられてしまう。
無断でダンジョンから持ち出せば実刑もありうる重大なアイテムだ。
実は俺もダンジョン協会に内緒で2つ隠し持ってはいるが……。
「指定管理アイテムにしてしまえば、事情を少々説明しても大きな問題は起こらんだろう。まあ、裏では色々あるだろうが、一般探索者に影響が出なければまあ、良しとしよう。だが、それにしても数ヶ月の時間がかかるだろうから、その間にお前の戸籍情報なんかを上手く更新できるように掛け合う。」
「じゃあ、ダンジョン専門高校は退学したほうがいいのか?」
俺は国立東京ダンジョン専門高校に1年生として通っている。結構気に入ってはいたんだが……。
「うーん。そうだなぁ。とりあえず今年度は休学してもらうとしてそれ以降はどっちでも良いが……、レベル1まで下がっちまってるし……。」
「確かにそれはちょっとまずいか。」
ダンジョン専門高校の名が表す通り、ダンジョン探索者を養成する学校だから実習や訓練がある。流石にレベル1では授業についていけないだろう。
「よし!丁度歳も12歳みたいだし、ダンジョン中学1年生からやり直せ。あそこならレベル差も大したことないだろうし問題ないだろう。」
「えー。やだよ。なんで卒業して1年でまた帰らにゃならんのか。いいよ。もうフリーの探索者やるから。」
そう。ダンジョン中学校は俺の母校だ。
一度勉強した事を今更やり直すなんて流石に面倒くさい。
「バカが!日本国内では探索者免許の発行は15歳以上、ただしダンジョン学校所属の場合のみ、年齢制限は緩和される。少なくともダンジョン学校には通ってもらう。」
「ちっ!実年齢は16歳だろ!なんとかしろよ。」
「できるか!それにお前の今の見た目でフリーの探索者なんてさせてたらまた世間からダンジョン協会がバッシングされるわ!今もなお若年者の探索者に対する風当たりは強いんだぞ。」
「……しゃ〜なしかぁ。」
「また詳しく決まれば追って連絡する。お前はゆっくり休んでスキル熟練度でも稼いで待ってろ。」
驚きいっぱいの【気まぐれな神の転生石】使用会が幕を閉じた。
次の更新予定
現代ダンジョンがある世界で、ジョブ【小悪党】♂は一発逆転を狙った結果、ジョブ【悪役令嬢】♀に セトウチ ハコネ @TNKJGTA
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