第4話 小悪党にさようなら

「はぁ、話がズレてますよ夕貴さん。本題を!…それに支部長もあんまり口悪く言わないでください。大人なんですから。」


彩奈さんの言葉を聞き本題を思い出す。

いけない。おっさんに腹立ててる場合じゃなかった。


「そうだ。本題だ!【気まぐれな神の転生石】使うぞ。」


「おいおいまじか!使うのかあれ!止めとけよ。レア度9なんて、世界で今までに両手で数えられる程しか見つかってない奇跡のアイテムだぞ!?売りゃ一気に億万長者。協会…ってか俺に売っとけ。」


10段階あるアイテムのレアリティの9段階目のアイテム。今までレア度10のアイテムが見つかっていない以上、現状最高のレアアイテムと言っていいだろう。

俺もレア度9のアイテムを入手出来るとは思ってなかった。


「嫌だわ!なんでおっさんに売るんだよ!」


そう文句つけると支部長は急に雰囲気を変えて真剣な表情で言ってくる。


「俺に売れってのは冗談だが。実際、そのアイテム説明を見る限りジョブレベル1に戻されるんだろ?おまけに願いが叶うかどうかも不明。それにお前の今までの努力がなくなるんだぞ?良いのか?」

 

「その話はさっき彩奈さんともしましたよ。もう覚悟決めてますんで。」


「………分かった。ならここで使ってくれるか?レア度9のアイテムだからな。一応何があるか分からん。万が一のためにここでやってくれると助かるんだが……。」


「そのつもりだからここに来たんだよ。」


このおっさんは案外面倒見が良い。

【気まぐれな神の転生石】を【アイテム鑑定】してもらい説明を読んだが、何か隠された副作用がないか心配なんだろう。

まあ、こういう所があるから自由人ばかりの探索者が集うここ探索者協会の支部長をやれているんだろう。


「じゃ、やるぞ。」


そう言って俺はカバンから一つの宝石を取り出す。

見た目は青色の六角柱状の結晶、まるでただの水晶に見えるが…。


「たしか、使用する事を願うだけでいいのか?」


そう思いながら結晶を握ると耳馴染みのある女性の声が聞こえてくる。


『お久しぶりです。』


「おー。久しぶりです。ステ神様。」


聞こえてきた声は、誰も姿は見たことないもののダンジョンに潜る全ての人が聞いたことのある声、ステータスのレベルアップを告げてくれる音声と同じものだ。


探索者は愛称としてステ神様と呼ぶことが多い。

俺は過去に数回、今回の様に直接会話して説明を受けた事があるが、前回は3年ほど前だった筈、結構久しぶりの再会だ。


レベルアップ等の読み上げのほか、一部効果の難しいレアアイテム等の説明してくれることもある、ありがたい存在だ。

しっかりとした人格を持った存在ではあるが、自身の正体は本人にもわからないらしい。


『では早速、アイテムの説明に入りたいのですが準備は良いですか?』


「了解です。いつでも構いませんよ。」

 

ステ神様が嘆息するように話す


『初めてではない人には説明が早く済んで助かります。説明する事こそ私の仕事とはいえなかなか理解してくれない人もいますから。』


まあ、この人なりの苦労もあるんだろう。


『さて、私の愚痴はこの辺にしておいて【気まぐれな神の転生石】の説明をします。恐らく【鑑定】系スキルは既にお使いになってお調べになっているかと思いますが、このアイテムは使用者の今まで鍛えてきたレベル、スキル等のステータス上の技能を生贄に捧げてステータスを初期に戻すものです。その際にアイテム使用者の願いを反映しステータスを調整することが可能です。願いは口に出して言葉にすれば抽象的な言い方でも問題ありません。また、この生贄に固有スキルオリジンスキルは含まれません。』


「え!本当に!」


固有スキルというのは一定の確率で先天的に持っているスキルで、使い道のないものから破格の力を持ったものまで千差万別だったりする。

俺のは【練習大好き】とか言うフザけた名前のスキルだが性能は破格で、全てのスキルの習熟速度を2倍にすることができる。

このスキルだけは失いたくないと思ってたんだ。

だけどなんで固有スキルだけ生贄にならないんだ?


『私はあくまでアイテムの説明をしに来ただけなので詳しい話はできませんが、固有スキルオリジンスキルはその人の魂に深く結びついた力なのでそれを書き換えることは大変難しい……とだけ言っておきましょう。なので貴方の固有スキルは失われることはありません。安心してください。』


うーん。よく分からんけど。俺にとって好都合ってことか。


『そして、願いが叶うかどうかは生贄の量と質に影響を受けます。具体的な数字は説明出来ませんが、今の貴方でも分の悪いかけにはなるでしょう。』


そうか。凡そ5年分のステータスがあれば案外簡単に確率を突破できるかと思ってたが世の中甘くはなさそうだ。


『あとは願いの種類ですが、であればほぼ全て願うことができます。ただ願いの大きさに応じて願いが叶いづらくなりますし、叶っても生贄が少なければ、中途半端な形になる事があります。』


この辺は【アイテム鑑定】スキルで調べても分からなかった部分だな。願いの大きさによって叶いづらくなるってのは想定通りだが……。


「中途半端に叶うっていうのはどういうことなんだ?」


『そうですね。例えば世界最強になりたいと願いを口にしても、それを実現するリソースとしての生贄が少なければ、精々全ステータスが高めなったり、或いは強力なスキルを得たりするだけで、言葉通りの世界最強にはなれません。願いを叶えるに見合うだけの生贄を捧げろということなんでしょう。慎重に願いを決めるのがよろしいかと。』


なるほど、これは願いの選定は慎重にすべきだな。

いくつか願いを考えていたがなりたい自分を明確に表現しないと余計なことにリソースを割かれて中途半端な結果になりそうだ。


『では、以上で説明を終わります。』


周囲を見回すと支部長も彩奈さんもこっちの事を見守ってくれている。

ゆっくり考える時間はありそうだ。


うーん。なんだろう。やはり攻守魔法物理全てに優れる最強クラスのジョブである【英雄】に変えてもらうか?いや、それじゃ生贄が足りなくて願いが叶うか分からないし、中途半端になるかも……。

じゃあやはり役割を限定した【聖騎士】【剣聖】【魔法王】なんかの一点に特化したジョブがいいかな?

いや、それこそ強力なスキルとかもいいか?無限の魔力を生み出す【無限魔力】や単純に圧倒的な力を得る【巨神の力】も魅力的だ。或いは【魔法反射】【物理反射】のような防御性能の強いスキルなんかもいい。

それとも基礎ステータス値を盛って貰うってのも捨てがたいな。

どれも悩ましいな。


頭を捻りながらあっちでもないこっちでもないと考える。

そのまま10数分ほど経っただろうか?目の前では支部長と彩奈さんが茶菓子を食べ寛ぎ始めている。

そのくらいの方がこっちもゆっくり時間を掛けて考えられるから助かるが…。


願いの方はいくつかに絞れてきたがイマイチ決め手にかける。

ただやはり強い攻撃能力で敵をバッサバッサ倒してみたかったんだ。

やっぱりそっち系のジョブに変えてもらおう。

そう考えていると突然、部屋の扉が開きそれとともに腰に衝撃が来て慌てて顔をそちらに向ける。


「おじいちゃん!もう梨亜待てないよ!遊ぼう!」


自分の腰に目を向けると、10くらいだろうか?可愛らしいが腰にぶつかってしまったようだ。


?」


支部長の孫が来る彩奈さんが言っていたが、部屋の中まで遊びに来てしまったようだ。

うん?………あれ?俺今って口に出したか?

まずい!ステ神さまは【気まぐれな神の転生石】の効果発動は使用する意思を見せた後、と言っていた。

これは願いを言葉にしたって扱いになるんじゃ……。


「ちょっと!待ってくれ!ステ神様今のナシ!無しで!」


『………申し訳ありません。私はあくまで説明をするだけの存在でどうすることもできません。今口にした言葉を願いと捉えるかは…その…【気まぐれな神の転生石】次第です。……まあ、あなたの手の中の結晶を見る限り結果は分かったも同然ですが……』


ステ神様の気まずそうな雰囲気の声が聞こえる。

手の中の結晶は光り輝いていて明らかに何かしらの効力を発揮しようとしていることが明白だ。

俺は光に包まれながら意識が薄くなっていく。


『【気まぐれな神の転生石】の効果によりステータスを初期化します。』

『【女性化】【若返り】を習得しました。【若返り】は規定値まで熟練度が足りません。効果が減衰します。』


意識が消えゆくのに逆らって無理矢理意識を保っていたが、何か嫌なアナウンスを聞いた気がして力が抜け、そのまま俺は意識を失った。

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