15.契機

 

―――あーあ、ハイリアル様に付いて行くって、言ってしまったなぁ……。



 レイリーリャは愛馬ズゼルーマーに跨がったまま、打ちひしがれ全身の力が抜けてしまっていた。もし今乗馬していなければ、脱力感を感じるまま後ろに倒れ込み、重力に全身を委ねて地面の上で仰向けになっていただろう。


 自らには戦う力が無い無力だという事と、自らの心に対して自制する力が無い事を受け入れてしまい、微かな寂しさの混じったような虚ろさを感じている。

 だが、この行動の選択を行ってしまった事に関しては、後悔はしていなかった。

 


 それというのは、この日宿泊した宿を出る前に荷物を纏めながら、これからどうしたら良いのか悩んでいた時の事だった。



―――魔物に見つかっちゃうと、襲われるよね。そうなるのはやっぱり、嫌だよねぇ……。



 レイリーリャは今朝使った櫛を、左手に持った小物を入れる袋の中に入れながら思ってしまう。こう思ってしまう度に気分が沈み重くなる。



―――魔物達に見つかっても、戦う前に逃げてくれればいいけど、う~ん……。



 歯ブラシを上下に振って水を切り、小物入れの中に入れる。

 そして使い切れずに余った洗剤の実という水色したミニトマトみたいな果実を一つかみして、その手を同じ小物入れの中に突っ込む。



―――もし魔物達がわたし達を見つけなかったら、襲われないという事だよね?



 小物入れの中から出そうとした手の動きが止まった。



―――そうなると、魔物達に見つからず出会さずに済んでいる間は、「―――襲われずに済むから、安心していられるという事だよね。」



昂る余り声が口から出てしまう。



「しっかも、昨日と同じ調子なら、…………魔物に襲われている時間よりも、襲われていない時間の方が長いよね。」



 閃いたとばかりに、片手に持った小物入れを手のひらで叩いた。



「それにハイリアルさまの他に守ってくれる人が加われば、わたしが一緒に付いて行っても大丈夫という事だよね。」



 そう呟くと、館に戻って副メイド長達と一緒に働かずに済みそうに思え嬉しくなる。



「やったッ。これであの人達から逃げられ―――」



 嬉しさで昂ぶり、左手に持った小物入れを何度も上下に振ってしまう。

 小物入れの口から中に入っていた歯ブラシや櫛、それに入っている袋を振られ潰れてしまった洗剤の実などが飛び出し床や部屋の壁に当たる。壁に当たって潰れた洗剤の実は、白い果汁の跡がそこに拡がり雫が床に垂れ落ちる。


 レイリーリャは壁に雫が垂れ落ちていくのを目に入りながら、小物入れの中も眺める。



「うわぁぁぁ!やっちゃったぁ。何やってるのぉ、わたしぃ!」



 レイリーリャは突然何かのスイッチが入ったかのように動転した。壁や床に付いた果汁の跡と、洗剤の実が入っているのに叩いて潰し汁まみれになっている小物入れの中を凝視する。そして鞄の中から雑巾を取り出すと、据え置きのたらいに水を入れ、汁を拭き取る為に雑巾を浸した。




 ……このようにレイリーリャは出発前に魔物に襲撃される事に関する考え方を変えた。それによって、館に戻る事を翻意して、ハイリアルに随行する事にした。

 それまでは、魔物に遭遇し襲われた時には自分には対応出来ないと思い、そういう状態に陥る事を怖れていた。


 しかし、魔物に遭遇せずにいる間は襲われず平穏にいられ、例え襲われた時にはハイリアル以外にも護衛する者がいれば無事にいられ、襲われる時間よりも襲われずにいられる時間の方が長いはずというように考えを変えた。

 考え方や受け止め方を以前とは違うものに変わり、魔物に襲われる事に対する恐怖は、場所と時間を問わず闇雲に恐れてしまう事は減った。



―――……これで副メイド長達と館で一緒に仕事をして、嫌な思いをしないで済むのはいいけどねぇ……。



 レイリーリャはズゼルーマーの手綱を握りながら空を見上げる。

 雲のない青空を、鳥が風に乗り弧を描く。



―――……だけどぉ、自分の力だけじゃあ、魔物をやっつけたり追い払えたりするのを出来ないのは、相変わらずだけどねぇ……。



 レイリーリャは溜息をつく。



―――……新しい仲間を入れてもらうまで、自分で何とかしないといけないかぁ。



 落胆して頭が下がってしまう。自らの無力さを感じながら、嘲笑いが口から漏れてしまう。


 雲一つ無く爽やかですがすがしく見える青空が、現在のレイリーリャに対する皮肉のように感じる。



―――……それはそうと、ハイリアル様の身体、本当に大丈夫なのかな。……



 レイリーリャは顔を上げハイリアルの背中を見つめる。

 ハイリアルの背中は見かけよりも肩幅は広く、威圧する空気を周囲に醸し出している。それは魔術師としてだけでなく、騎士だとしても鍛えられている事を物語っていた。



―――ハイリアル様の身体の事を心配した時に怒ってたように感じけど、何で怒ったんだろう?



 レイリーリャはハイリアルの周囲に暗雲が漂っているような雰囲気を、実際には全くそうなってはいないのに感じてしまう。



―――そういえば、ハイリアル様の病気って何だろう?メイド長達から説明された覚えないけど。



 出発前からの記憶を辿ってみるが、誰からもその説明をされた記憶について全く思い出せず、見当もつかなかった。



―――……血を吐いていたけど、どうなんだろう?あれから血を吐いていないけど……。




 ハイリアルの身体の状態について想像する。

 しかし、ハイリアルの身体の状態が悪く、今すぐに旅を止めて治療をしなくてはならない程の重症である可能性がある事を、レイリーリャは無意識のうちに目を逸らしてそう思わないようにしていた。



―――…………ハイリアルさまは痛いとか苦しいとか言ってないよね……。



 事実確認というよりも、自分自身を正当化する為に言い訳して誤魔化しているように、無意識のうちに感じながら。



―――…………なんか、わたしのやってる事って、ハイリアルさまをダマしている事みたいね……。



 レイリーリャは前を進むハイリアルの背中を見つめる。出発前にあれこれ本心では無く付け足したような、付いて行く理由付けとして説明をした事が思い返る。


 今朝少し前に喋った事なのに、その時に喋った内容の記憶があやふやになり始めている。……いや、喋ったその瞬間から、記憶に無い。



 主人を欺いているにしては、思っていたよりも罪悪感を感じていなかった。もう少し申し訳なさを感じた方が良いのではないかと、自らに対して思う。


 結果的にレイリーリャが再び付いて行く事はハイリアルにとっても都合の良い行動で、お互いにとって都合の良い行動で上手い事やったと、今現在自覚する意識の上には上がっていなかった。


 レイリーリャはハイリアルの背中に向かって聞こえないような小さな声で呟く。



「…………ごめんなさい。…………」



 一区切り付けたように語尾が切り上っていた。謝るというより、気持ちを次に切り替えたという感じであった。



―――……気持ちが全然こもってないし、やっぱりわたしは、碌な女じゃないよね。



 内心自嘲すると溜息をついた。

 ハイリアルは後ろを振り返る事無く、何も気付かぬまま、前に向かって乗っている馬を進めている。



 街道で移動している最中、二人の間に漂う沈黙の空気が晴れる事はほとんど無かった。

 ハイリアルは道中レイリーリャに用事を申しつける時以外は何も喋らず、ずっと沈黙を保ったままであった。

 眉間に皺を寄せ唇を噛みしめて、苛立ちや不満、辛さを表に表す事を我慢しているような険しい表情を続けていた。


 たまに道中で休憩を取る時には、ハイリアルは道を外れ、レイリーリャから見えない森の中に入るのだった。それからハイリアルの怒りを込めて何かに攻撃するような怒号、魔法か何か攻撃による木々の破壊音が響く。それがレイリーリャの耳に入ると驚きと恐怖を感じるのであった。


 そして戻ってきたハイリアルにレイリーリャが魔物による襲撃の有無等を尋ねると、機嫌の悪そうな表情しながら、そんな所だなどと適当に応えるのだった。そしてこれ以上この話題に触れられる事を嫌がるかのように、速やかに話を終わらすのだった。


 レイリーリャはこの触れたら怒り出しそうなハイリアルが放つ雰囲気に、怖さを感じた。

 何か伝える必要のある時は、何か気の触る事を言って怒らせてしまうかもしれない怖れを感じ、ハイリアルに話しかける事に躊躇ってしまうのであった。

 その様な状態だったのでレイリーリャは居辛さを感じた。そしてハイリアルから気持ち距離を置いてしまうのであった。



 道中で六足狼やゴブリンなどといった魔物に何度か遭遇した。そのような事態に陥った際には、レイリーリャはハイリアルの背後から襲われないように乗っている馬ズゼルーマーを盾のようにして、ハイリアルの背後に控え反対側を見張る事を予め決めていた。


 レイリーリャは怖がらずにしっかり見張りをしなくてはいけないと思っていた。

 しかしそれにも拘わらず、魔物達に襲われてた時には、それが出来なくなってしまった。


 魔物達を見た途端怖くなってしまい、身体が震え両足が竦んで身体が動かなくなってしまったり、頭や身体を縮めて馬の胴体の陰に隠れてしまい、確実に周囲を見回して見張る事が出来なくなってしまった。


 魔物達に対する恐怖が甦ってしまった。

 魔物に対する恐怖に取り憑かれ、全く取り払えてなかった。


 幸いレイリーリャがそのような状態になってしまった時には、見張らなくてはいけない方向から魔物達に襲われる事は無かった。

 ハイリアルは独りの力で魔物達を一掃し、レイリーリャがそのような状態に陥っている事に全く気付いていないように、レイリーリャには見えていた。



―――……どうして後ろを見張るぐらい出来ないの。


 毎回毎回怖がってうずくまってばかりで、ちゃんと見張れないじゃない……。



 ハイリアルが魔物達を撃退する毎に、レイリーリャは指示通りに見張りをする事が出来なかった自分自身を責めていた。



―――……これじゃあ、ただの足手まといじゃない……。


 わたしはそれ位の事が出来ないダメな人なのね……。



 そうした後は自らの無力さに悲しくなり、心が沈んでしまう事を繰り返すのだった。



 しかしそんなレイリーリャにも、変化するきっかけとなる出来事が起こった。

 ある日の事だった。

 街道を乗馬してハイリアルと進んでいた時に、ゴブリンの群に襲われた時の事だった。


 ハイリアルは左手の薮に何かが潜む気配に気付くと、速やかにレイリーリャの乗る馬の横に並ぶ。



「……何か潜んでいる。降りて後ろを警戒しろ。」



 ハイリアルは左手の薮の方を凝視しながら、レイリーリャがいる方を振り返らずに指示する。


 それを聞きレイリーリャは戦慄する。

 その瞬間全身が固まってしまい、鞍の上に座ったまま動けない。

 身体が震えてしまっているのに自覚出来ていない。



「早くしろ。……魔物が潜んでいる。」



 ハイリアルはレイリーリャの方に振り返らずに告げる。感情を表に出さないように試みているが、強まった言葉の語尾から苛立ちがにじみ出る。



「は、はい!畏まりました。」



 レイリーリャはこのハイリアルの一言で、身体が固まって動かないままで、指示通りの行動が出来ていない事を自覚した。それと同時にハイリアルの怒りを買ってしまったと思い、ハイリアルも恐く感じてしまう。


 事前の決まり通りに乗っている馬から降りて盾にしようと、ハイリアルが身構えている方である左側に、身体を震わしながら馬の胴を抱えへばりつくように足から滑り落ちた。


 レイリーリャは魔物達とハイリアルの苛立ちに恐がりながら、二匹の馬がいる間から見張ろうと試みる前だった。


 ハイリアルは薙刀を左手の街道の間際に茂る薮に向けて、何も言わずに魔法を無詠唱で発した。引き裂く嵐ティアストームだった。


 風の刃が流れて渦となり、薮を嵐となって絞め上げる。切り裂かれた緑やカーキ色した葉や枝、それに魔物の肉塊や緑がかった黒い血しぶきが、魔物の断末魔の叫びと共に風の刃に乗って青い空に舞い上がる。


 嵐はハイリアル達の背後を取られぬよう虱潰しをするように、街道を平行にゆっくりと進んでいく。


 魔物達の叫び声がゴブリンだとハイリアルは認識すると、忌々しそうな顔をして溜息をつく。そして薮から街道にゴブリンが飛び出し姿を見せる度に、薙刀を構え氷鎗の魔法で貫いて行く。



「……やっぱりゴブリンか。氷鎗で大丈夫だな。」



 ハイリアルの呟きは淡々としている。

 ゴブリンの身体を貫いたまま氷鎗が地面に刺さり、モズのはやにえと化する。


 ハイリアルが氷鎗を何発も放っていると、左右の薮の中から挟み込むようにゴブリンが飛び出てきた。




 ハイリアルは舌打ちすると、右側より飛び出してきたゴブリン目がけ氷鎗を放つ。それが刺さって倒れる間も無く、左側より襲いかかるゴブリンに振り向く。ハイリアルが顔を向けると同時に、ゴブリンは手に握り締めていた物をハイリアル目がけて投げつけた。砂利だった。ハイリアルは薙刀を握っていない方の左腕で顔を隠す。



「ゴブリンのクセにシャラ臭い。」



 口から発した言葉とは裏腹に、右の口許に薄笑いが浮かぶ。

 ゴブリンの目は血走り、顔面は憎悪と恐怖で歪んでいる。


 ゴブリンは飛びかかりながら、乗馬したままのハイリアルの身体目がけ蛮刀を振り上げる。

 その瞬間、ゴブリンの喉元に薙刀の刃が突き刺さる。喉に刃が刺さりゴブリンの叫び声が止まる。切り口から流れる血が喉に溢れ咽ぶ。


 ハイリアルは薙刀を振り払い、刃に刺さったゴブリンを振り落とす。その刃はゴブリンの首許から抜け、背中から地面に叩きつけられる。


 仰向けになったゴブリンの身体が痙攣を繰り返す。喉の切り口から呼吸音と共に緑黒い血が地面に拡がっていく。痙攣をする間隔が徐々に拡がると共にその力も弱まり、やがて動かなくなった。


 

 レイリーリャはハイリアルに命令されたものの、この時もしっかり見張れていなかった。

 レイリーリャの乗る馬スゼルーマーは背が高く、背中越しではレイリーリャの身長だと背伸びしても遮られ見張り難かった。


 その上魔物に襲われた時の記憶が再び蘇り、その怖ろしさがまだ残っていた。


 見張らずに怖がっていてはいけないと気張ろうとする。しかしながら、怖ろしさに心を支配され、愛馬ズゼルーマーの前足に捕まり座り込んでしまう。



「…………大丈夫。大丈夫。怖くない。怖くない。……」



 レイリーリャは怯えて震える自分自身に対して、暗示に掛け奮い立たせるように呟きを繰り返す。


 しかし自己暗示が効かず、怖ろしさは感じたままだった。


 それでも両手をズゼルーマーの前足を掴み座り込んだ姿勢のままだが、その怖ろしさを耐えながら顔を上げて両目を右、左へと動かし、ズゼルーマーの胴の下から周りを目に入れようとする。


 何としても見張りとしての仕事をしようと辺りを見回そうとした。その時、レイリーリャの正面の薮、即ちハイリアルにとって背後の薮から、何かが飛び出したのが視界の隅に入った。

 それはズゼルーマーの後ろ足に遮られ、死角になってしまい見辛い所だった。

 レイリーリャは顔を動かし凝視する。


 ハイリアルを背中から襲おうとしているゴブリンだった。ゴブリンは剣を構え駆け寄る。レイリーリャは恐怖で身体が凍る。



「――――――    は 、  は、 は、 ハイリ ア  ル、さまっ!  ゴブ ……」



 レイリーリャは恐怖で戦慄し、口が思うように動かない。それでも言葉にならない声でハイリアルを呼んだ。

 その言葉が言い終わる前だった。


 駆けているゴブリンが足を縺れ、体勢を崩して転んだ。地面に顔面から滑り込み這いつくばる。


 ゴブリンはばっと顔を上げ、ハイリアルを見上げる。その顔は恐怖で歪み、血走った両目が見開いて強張る。額が擦り傷で緑黒く滲み、鼻孔から緑黒い血が滴り落ちる。


 ハイリアルは倒れた音で気付き、振り向こうとした。

 ゴブリンは恐慌し焦りながら立ち上がる。その途端腰蓑を縛るひもが切れた。腰蓑がずれ尻の上の方が晒される。


 ゴブリンは元来た方に逃げようと後ろを向き走り出した。

 落とした剣は顧みずその場に放られたままだった。


 走りながら腰蓑が下にずれ落ち、ゴブリンの薄緑色の尻ほとんどが曝け出される。尻の肉には吹き出物が拡がり、拭き取られていない汚れも残っている。


 ゴブリンは慌てて腰蓑を掴み股間を隠す。

 それによって両腿を広げて走れず足がもつれる。

 再び転びかけながら道端に辿り着き、頭から薮の中に飛び込んだ。


 その瞬間ゴブリンが跳んだ路面に氷鎗が刺さる。ハイリアルの攻撃は間に合わなかった。



「……やり損ねてしまったな。」



 ハイリアルはゴブリンが飛び込んだ薮を眺めながら苦笑いを浮かべている。



「アレを思わず見続けてしまった。また襲いかかってきたら直ぐに知らせろ。」



 ハイリアルはレイリーリャの方を向いて指示する。その声の調子は余裕が出たのか柔らかかった。そして再び正面に振り返り、現れるゴブリン達に向けて魔法を放っていた。



「…………あれは一体なんだったの……。」



 この様子を見ていたレイリーリャは唖然としていた。


 襲いかかろうとしたゴブリンが走り出した途端転んでしまったので、戦うのを止めて逃げ出すとは微塵も想像していなかった。


 しかもその時のゴブリンの態度に凶暴さは感じられなかった。それどころか、怖がって動揺し慌てふためいている事が表情や行動から見て取れてしまった。


 レイリーリャには、人達がゴブリンに対して恐れを感じている事と同様に、ゴブリンも人達に対して恐れを感じているように見えたのだった。


 また改めて見てみると、このゴブリンの身体は余り大きく見えなかった。


 森で襲われた時に見たものよりも小さく見えた。

 身長はレイリーリャの胸より低いように見えた。

 周りで群がりハイリアルを襲っているゴブリンも、同じ程度の大きさのように見える。

 


―――…………用を足している時に借金取りに見つかり、トイレから飛び出してきた黒小人フルーデルのおじさんみたいだったね……。



 今もレイリーリャの身体には怖ろしさや緊迫感はまだ残っている。しかし強張る程の強さではなかった。



―――しっかり見張らなきゃ。



 レイリーリャは気合いを入れようと、両手で自らの両頬を叩く。そして改めて小刀を握り締めると、ズゼルーマーの太ももの陰から頭を出し辺りを見回し始める。



 この時以降もレイリーリャは魔物に対して、怖ろしさを感じなくなるような事は無かった。


 しかし、魔物に襲撃された時に感じる怖ろしさは、以前程強く感じるような事は無かった。


 恐怖で身体が強張って動けなくなってしまったり、怯えて丸く縮こまってしまうような事は無くなった。


 徐々にだが、魔物の全身をしっかりと見れるようになった。



 今回のゴブリンによる襲撃は、同じような襲撃を受けた際には、魔物が自分を狙って攻撃されないか怖さを感じつつも、ハイリアルの背後で構え、周囲を見回して状況を見る事が出来るようになった契機となったのだった。



 後日、レイリーリャがこの契機について振り返る時はいつも、恐怖で血走る両目を見開く顔と、吹き出物と拭き取られていない汚れで汚い尻をしたゴブリンの姿が、嫌でも心の中に甦ってしまうのだった。




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……この作者、他者評価に対して淡々としているようでも、やっぱり褒められると喜んでいるようなんです。


作者おだてりゃ 木を登り

ますます ハナシ 創りまくる

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