猫の歌い手
チェンカ☆1159
猫の歌い手
あるところに、一人の若い女性が二匹の猫と暮らしていました。
一匹は白いメス猫のユキ、もう一匹は黒いオス猫のライです。
女性は自身の歌声を猫達に披露するのが、一番の幸せでした。
そんなある日のこと、白猫のユキが突然いなくなってしまいました。
女性はとても悲しみ、黒猫のライは彼女のそばにずっといました。
ある時、女性は一本の動画を見つけました。
それは白い猫耳と尻尾を持つ少女が歌っている動画でした。
「まるで人間になったユキが歌ってるみたい」
女性はそれからというもの、すっかり少女のファンになりました。
それから少しして、今度は黒猫のライがいなくなってしまいました。
女性はまた悲しくなりましたが、少女の歌を聴くことで元気を貰っていました。
「今日はみんなに紹介したい子がいるの」
少女に呼ばれて出てきたのは、一人の少年でした。
女性は彼を見て、びっくりしてしまいました。
なぜなら少年は黒い猫耳と尻尾を持っていたのです。
白猫の少女と黒猫の少年。
偶然とは思えないその組み合わせに運命を感じた女性は、時折二人にユキとライを重ねるようになりました。
そんな日が続いていたある晩、女性の夢に少女と少年が出てきました。
「あるじ様、あたし達のこと覚えていますか?」
少女の問いかけに、女性は戸惑いました。
「覚えてるかって……」
「忘れちゃったの?ぼくはライだよ」
「あたしはユキよ」
女性は驚きつつも、笑顔を浮かべました。
「そうだったんだね。でも、どうして私の前からいなくなったの?」
「それはね、あるじ様との本当のお別れが近かったからなんだ」
ライが言いました。
「だから神様に頼んで、少しの間だけ人間にしてもらったのよ」
ユキが言いました。
「動画はちゃんと残しておくわ。あるじ様が寂しくないように」
「たまにぼく達の歌を聴いて、思い出してくれたら嬉しいな」
「待って、いかないで」
女性はそう口にしたものの、いつの間にか二人の背中に翼が生えていることに気づきました。彼女は一回深呼吸をすると、ゆっくり微笑みを浮かべました。
「ユキもライも、ありがとう……じゃあね」
ユキとライは頷くと、現れた虹の彼方へ飛び去っていきました。
女性は夢から醒めると、声をあげて泣きました。
泣いて、泣いて、泣きじゃくって、涙が出なくなった頃になって、彼女は動画が更新されていることに気づきました。
そのサムネイルには、真っ黒な背景に白い文字で「引退のご報告」とだけ書いてありました。
女性は動画を見終えた後、一言だけコメントを書き込みました。
今まで本当にありがとう、ずっと大好きです。
それからというもの、二人の動画は更新されることはありませんでした。けれども再生数はほぼ毎日増え続けました。
そしてかなりの月日が経った頃、新たに作られたチャンネルで一本の動画が投稿されました。
動画の中で綺麗な歌声を披露しているのは、一人の女性。
ユキとライの歌声に元気を貰っていたあの女性は、今度は自分が誰かを元気にしたいと今もどこかで歌い続けているのです。
猫の歌い手 チェンカ☆1159 @chenka1159
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