花は派手に咲かない。だが、その香りは長く残る。
- ★★★ Excellent!!!
本作は、いわゆる西欧ファンタジーの文脈では語れない。
王や英雄が世界を塗り替える物語ではなく、
家と血と責務が静かに連なっていく、
神聖ローマ帝国東縁を思わせる貴族世界が、
息遣いとともに描かれている。
主人公は、これから権謀術数の世界を渡り歩くことになる少年。
彼の前に現れるのは、
まだ硬い蕾でありながら、
いずれ時代と人心を魅了するであろう少女たち。
交易、騎士団、家督、縁談、宗教観。
それらは説明されるのではなく、
生活と会話の中に沈み込むように配置され、
読者は気づけば、
東欧貴族文化特有の重みを自然と受け取っている。
花は派手に咲かない。
だが、その香りは長く残る。
本作は、そうした物語を求める読者にこそ、
静かに手渡されるべき。