第41話 そんなすぐじゃなくて大丈夫ですよ
集落東部の川が復活した数日後、私は集落唯一の大工であるロバートさんのもとを訪れて水車について相談した――んだけど。
「……すまん、そいつはわしにはちと荷が重いな」
私の話を聞き終えたロバートさんは、年齢を感じさせない太い腕を組みながら眉間にしわを寄せた。
「小屋ならいくらでも建ててやれるが、水車そのものはなぁ……さすがに構造がわからんものまではどうしようもないぞ」
エリーゼさんとの会話の中で上がった懸念が的中した形だ。大工さんの中にもそれぞれに得意分野があって、この集落で必要とされる能力は家屋に関するものに絞られる。いくら能力があったって、専門外の領域だと力を発揮できるはずもない。
「そうですか……そうなるとやっぱり、専門の方をお呼びしないとですかねぇ……?」
口にしながらも、私の気は重い。
ものづくりには当然お金がかかるわけで、エリーゼさんに聞いたところによると小規模な水車を建てるだけでも去年の作物の売却益が全部吹っ飛んじゃうくらいの規模になりそうなんだよね。
材料費なんかは私が魔法でどうとでもできると思うんだけど……結局のところ、かかるのは材料費よりも技術や人件費のほう。これが集落の中でまかなえないとなると、水車は諦めるしかないかな……。
仕方ない、数年かけて貯蓄を増やして再挑戦かな、と思っていると。
「いや、全部を外に頼む必要はないぞ」
ロバートさんは意外なことを言った。
「水車部分の設計だけ他に任せるってやり方もあるはずだ。図面があれば、組むだけならわしにもできるかもしれんからな」
「なるほど……?」
方向性は違えど、ロバートさんはこの道数十年の大ベテラン大工さんだ。設計図さえあれば、これまでの経験を生かしてそれ通りに組むことはできる……ってことなのかな。
それだったら確かに、全部外部に委託するよりは遙かに安くて済む。……それでも私個人の資産からいくらか補填することにはなりそうだけど、今後水車によって生み出される利益を考えれば、投資する価値は十分にあるよね。
「わかりました。設計のみを外部に委託して、建設工事は領民で行う。その方向で検討してみようと思います」
「おう。新しい建物を作るなんて久々だ、腕が鳴るぞ」
言って、ロバートさんは自分の二の腕のあたりをバシバシとたたいて破顔する。技術を生かせることが嬉しいみたい、いかにも職人さんって感じで頼もしい。
「頼りにしてますね。……あとは人出をどう補うか、ですけど……」
「これから忙しい時期だからなぁ。その分時間をかけるしかないだろう。……こういうとき、『造営魔法』でもあればいいんだがなぁ」
魔法には基本となる火・風・土・水・雷・氷の六つの属性魔法があるんだけど、これらを組み合わせることで属性魔法単体ではできないことをできるようにする研究が日々進められてる。『造営魔法』はその研究によって生み出された魔法の一つで、極めれば素材を集めるだけで思い描いた施設や設備を作れちゃうとんでもない魔法だ。
これには通常の属性魔法とは根本的に異なるスキルが必要で、多くの場合は個人の資質や才能に大きく依存するって言われてる。私もほんのちょっとだけかじったことがあるくらいだからさすがに本格的な建築には使えないかな。もし使えたら設計はおろか、実際の建築だって大きくコストを削減して行えるわけだけど――。
「確かに、今一番ほしい魔法かもしれませんね。……もっとも、そんな人を雇えるくらいなら水車の二つや三つ簡単に作れちゃいそうですけど」
違いない、とロバートさんが肩をすくめる。
そう、そんなとんでもないかつ貴重な能力を持った人を雇うには当然とんでもない額のお金がかかる。それこそ王宮では能力の高い造営魔法使いを厚遇で抱えてるくらいだからね。
……そういえば、私がまだ王宮にいた頃にそんな造営魔法使いが絡んだ騒動があったっけ。確か、禁書扱いになってる魔導書に手を出したとかだったかな。そんなことしなくたって造営魔法は十分すぎるくらい優秀な能力だと思うんだけどなぁ。少なくとも【目覚まし】って名前のせいで追放された私よりはずっとマシでしょ。
と、話が逸れちゃった。とにかくこの水車建設は長丁場になりそうだし、地道に取り組んでいくしかないよね。まずは設計だけでも請け負ってくれる方をエリーゼさんに探してもらって、実現性を検討しよう。
私がそう考えをまとめて、ロバートさんにお礼を言おうとした、そのとき。
「その設計、私にやらせてもらえませんか!?」
集会所の扉がバァンと勢いよく開いたかと思うと、作業着姿の女性が勢いよく飛び出してきた。
今更だけどここは集落中心の広場で、集会所の修繕を行ってるロバートさんに私が切ってきた木材を引き渡していたところだ。そしてロバートさんとともに集会所の修繕を行っていたのがこの女性――リディアさん。以前シルフィア様の歓迎パーティーのとき、シチューのお鍋の番をしてくださってた方だね。
「リディア、お前水車の設計なんかできたのか?」
目を丸くするロバートさんに、リディアさんはニコニコと答える。
「はい、父上のお手伝いでやったことがあります! きっとお力になれるかと!」
聞くところによると、リディアさんはご家庭の都合で遠戚であるロバートさんを頼りここまで来たんだとか。家業はそれこそ建築関係で、ちょっとした物置小屋から貴族向けの大きなお屋敷まで様々なものを手がけてきたらしい。
それだけの実績があるのならきっとご立派な家計なんだろうし、私の耳にも届いてたっておかしくないんだけど……どうにもリディアさんには見覚えがないし、家名も教えてくれなかったんだよね。まぁ誰にだって言いたくないことの一つや二つくらいあるだろうし、深く詮索はしないけど。
「……だそうだがどうする、領主様?」
ロバートさんに問われて私は考える。
リディアさんの働きぶりは私もよく目にしてる。ロバートさんのお手伝いの他にも領民の皆さんの困りごとを聞いてはあれこれと動き回ってる、真面目で優しい人。それでいて明るく快活で、リディアさんのことを悪く言う人は多分この集落にいないと思う。そんな人が自分から手を挙げたんだから、きっと言うとおり設計もできるんだろう。
それに、仮に失敗したとしてもそこからプロの方にお願いすればいいだけのこと。今年の粉挽きだって私が魔法でサクッと終わらせればいい話だし、むしろ農閑期に入ってからの方が領民の皆さんの協力を仰ぎやすいし、建築の人手という意味ではちょうどいいくらいかもしれない。
つまるところ、断る理由なんてないわけで。
「わかりました、それではリディアさんにお願いしますね。一緒に頑張りましょう」
「ありがとうございます! 必ず皆さんのお役に立てる水車を作って見せますよ~!」
空に向かって力強く拳を振り上げるリディアさん。一応彼女の方が年上のはずなんだけど、なんだか微笑ましいなぁ。
「あんまり気合い入れ過ぎんなよ。無理しなくていいからな」
「だいじょーぶだいじょーぶ! ロバート叔父さんには迷惑かけないようにするから! それでいつから始めればいいですか!? 明日!? 何ならこの後すぐにでも!?」
「そ、そんなすぐじゃなくて大丈夫ですよ。今の作業に区切りがついてからでいいので」
ものすごく前のめりでびっくりしちゃった。私も負けないくらい頑張らないとね。
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お寝坊王女の辺境改革~謎ギフト【目覚まし】のせいで追放された私、土地も領民の才能も大精霊も目覚めさせて立派な領地を築きます!ところで目覚めさせた女の子たちからすごーく慕われてるのは何故でしょう?~ ひっちゃん @hichan0714
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