第14話 公園(4)
「ひなたちゃんって恥ずかしがり屋さんの子?」
やっと思いだした。葵を迎えに行ったときに一緒に出てきてくれたので、葵と同じく親が就労認定をもらった子だと知った。話しかけると、壁に半分くらい身体を隠して頷くのに精いっぱいという感じだった。
「恥ずかしがり屋? 手は出ないけど口はすごいよ」
口はすごい? 最後まで壁に身体を押し付けたまま手を振っていた様子を思い返す。あの子はひなたちゃんではなかったのか。
「クラス替えの申し入れって本当に反映されるんかな」
常々疑問に思っていたことを口に出してみる。
「されるよ。しないと文句出るやん絶対」
「たしかに。私たちの頃には考えられへんよね」
「先生の言うことは絶対やったもんね」
「わかる」
二十年以上前に自分の親がしていたことと似たような話をしていることに気づき、年をとったなと思わざるを得なかった。
うんていを終えて二人が走ってきた。休憩かと思ったが目の前のすべり台に移っただけだった。葵はここでも咲良ちゃんに一番を譲っていた。
このタイミングで変やけど、と前置きして口火を切る。
「いつも仲良くしてくれてありがとう」
「なに突然。全然いいよ」
「こんなコミュ障やのに」
「真面目やなあ。こちらこそよろしくう」
ペコっと首だけ前に出して笑ってくれる咲良ちゃんのお母さんにほっとする。
「実は私さ、近所のお母さんグループと上手くいってないねん」
「えっ?」
「陰口言われて仲間外れにされたり」
ほんの少し距離ができ、相手が動揺しているのが伝わる。思い当たる節がないわけではないのだろう。咲良ちゃんのお母さんは噂好きで、一歩間違えれば陰口になりそうな話も多い。傷つけないように慎重に言葉を選ぶ。
「でも、人って完璧じゃないやんか」
「えっ。優しすぎるやん」
「いやいや。歯向かう元気がないだけ。今は何しても無駄やし」
顔の前で手をぶんぶんと振る。優等生のような答えだと分かっているが本心なのだから仕方がない。
「ランチとかはなかったけど一年以上仲良くしてたつもりやってん。あとさ、私の服っていつも洗濯しやすいラフな感じやんか」
「それ実は思ってた。せっかくかわいいのに損してるで。もうちょっとおしゃれっていうか、周りからどう見られてるか考えてもいいんちゃうって思ってた。正直「え、今日ださいな」って思うときあるよ」
肩をポンポンとたたかれ、思わず苦笑してしまう。私はださいのか。それは嫌だ。でもはっきり言ってくれるのは本当に助かる。陰口より何倍もましだった。
「確かに時々見下されてて、いてもいなくてもどっちでも良いと思われてるなあとは感じてて」
「そういう扱いされて怒ったりせんの?」
「もう慣れた。私は同性からあんまり好かれへんなって。理由は分からんけど気づいた」
「そうかなあ」
次に何を言い出すのか、細心の注意を払って聞こうとしているのがわかる。口数の減ってきた相手に気を配りつつ、子どもたちが平和に遊んでいる間に言っておかなくてはいけないことを頭をフル回転させて考える。
「でも正直、見下されたりとかはどうでもよかってん。グループ内に保育士さんがいたから育児でアドバイスもらったり、収入の高い人からはお下がりをもらったりして着せたりしてて」
適度にみんなの自己顕示欲を満たしてあげれば悪い扱いはされないだろうと思っていたことは口に出さなかった。
「悪口って誰に言われたん」
答えようとしたとき、すべり台の上でじゃれ合う二人がバランスを崩すのが目に入った。
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