伝説の生き物は

「ん?今何と言った。伝説の生き物は龍だったと、そう言ったのか」


「はい、そう言いましたが」


俺は伝説の生き物について大きな魚だったか龍だったかとにかく大きな生き物であったとしか知らない。白田はなぜそう言い切れるのだろうか。


「沼津様、沼津様は知らなかったかもしれませんが、当時の状況について書かれた絵が発見されているんです。まぁ伝説は言い伝えなので本当にそんな感じだったのかは分からないのですが。


その絵にはハク湖とハク湖から出てくる白い龍、そして飲み込まれている男が書かれています。その絵に描かれている白龍の口元には人間の足であろう部分が描かれていますから、ちょうど飲み込もうとしている場面ですね。沼津様、その絵を見ますか?本物ではなくレプリカなのですが」


白田はそういうと少し待ってて下さいねといって応接室を離れた。絵があるのなら初めから見せてくれ、そうすればより話が理解しやすかったのにと俺は思った。


別に勿体ぶらなくてもいいのにと。しかしもしかしたら俺のハク湖の伝説に対する熱意が伝わりこのようなことになったのかもしれない。俺は白田が戻ってくるまで応接室で待った。


しばらくして応接室のドアが開いた。ドアを開けたのは先ほどカウンターにいた司書だった。司書に続いて白田がやってきた。白田の手には白い手袋が付けられていて、両手に長方形の箱を持っていた。おそらくその中に絵が入っているのだろう。


司書と白田は俺の目の前に座った。白田は絵を目の前の机に置くと蓋を開けた。中には一枚の絵があった。


「こちらがですねハク湖伝説に関する絵です。当館にはレプリカが、本物は国の研究機関にあります。沼津様、こちらを付けて下さい」


白田は白い手袋を俺に渡した。俺は手袋を受け取りはめた。


「どうぞご覧になってください。こちらの絵はなかなか見られないですから。なんせ一般には公開していないものですから」


俺はその絵を見た。先ほど白田が話した通り男を飲み込もうとしている白い龍が描かれていた。ハク湖の周りには樹々があることも確認できる。


「ご覧の通り伝説の生き物は龍です。まぁ龍だっただろうということですね」


「なぜこの絵を一般に公開してないんだ。公開した方がいいだろう」


俺は質問した。公開していたら俺はもう少し深い知識を昨日の時点で得られていただろう。ここまで来なかったかもしれない。


「それはですね、この絵が公開されてしまうとハク湖の伝説が薄くなってしまう危険があったからです。伝説の龍と言われるより伝説の大きな生き物と言われていた方が謎深くていかにも伝説ぽくていいでしょう。


どうやらこの絵が発見された時に当時の市議会議員や県議会議員なとが国と話し合って公開しないことを決めたらしいですよ」


「ならなぜそんなものを俺に見せたんだ。俺は一般人でありこのことを言うかもしれないんだぞ」


「そうですね。その点については沼津様の本気度でしょうか。わざわざ県立図書館まで来たことと加えて唯野さんの推薦といいますか、唯野さんから連絡があったことも理由の一つですね」


白田から唯野の名前が出たのは意外だった。


「なぜ彼を知っているんだ。唯野は言ってはなんだがただのホテルマンだぞ」


「はい、彼もですねハク湖の伝説を調べていた1人です。まぁ彼の場合はもう調べられないのですがね。あぁ、それは言ったらいけないことでした。とにかくこの絵を知っているのは県立図書館に勤めていた人、辞めた人を含めてと沼津様と唯野さんだけです。くれぐれもバラさないように」 


「分かった。唯野には言っていいんだよな」


「ええ、それはかまいません。彼には相談しても問題ありません。こちらの絵そろそろ戻してもよろしいでしょうか」


「あー、大丈夫だ。しっかり眺めたから」


俺がそういう時白田は絵が入っていた長方形の箱を閉めた。その後絵を戻した後に再び俺の前に来た。


「今回私から教えられるのはこんな感じです。また何かありましたら是非ともお越しください。あー、博物館に行こうと思っているのならあまり効果はないかと。あちらには絵なんてないでしょうからね」


図書館と博物館は争っているのか。そんなわけないよな。俺は白田に礼を言うと応接室を出た。


「一つ俺も確認したいことがあるんだがいいか。ハク湖についてではないんだけどな」


「ええ、何でしょうか」


「カウンターにいる司書の女性、まぁ先ほどまでここにいた司書の女性といえばいいのか。俺の予想というか勘が正しいのならあんたとあの女性は付き合っているだろう。ここに来る時に手を振っていたし、あの司書はあんたのこと館長ではなく彼と言ってたからな」


白田は少し驚いた表情を見せたかと思うとすぐに元に戻した。


「ご想像にお任せします」


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ハクションの湖 命野糸水 @meiyashisui

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