第2話にんじん嫌いな女

医師の女は覚えていないのか、目も合わせず無視である。延々とハンドスピナーを回し続ける。

 話を聞くと杏花はこの医師と親戚であったらしい…看護師の女は、医師を苦笑いで見つめ、挨拶を始める

「久しぶりね私は高田です。こっちは園田先輩。私の恋人です」

 女性同士で!?さらに驚く杏花に看護師が続ける。

 「ごめんね、先輩コミュニケーションがちょっと苦手で変わってるの人なの」

 聞くと医師の女はアスペルガー症候群、発達障害を持っているらしい。


杏花は、看護学校に入学するため勉強をするが、なんせ勉強は苦手である。教わるため、園田と高田の家に居候することを高田に提案され、ノリノリで合意したのである。

 園田と関わるうちに最初こそ、話しかけても無視だったが、勉強を教わるうちに、だんだん関わり方を覚えて意外と普通の人間なんだなぁちょっと変わってるくらいかに思えてきた杏花。そして園田は教えるのがめちゃくちゃ上手いのだ、呆れるくらい何もわからない杏花は大量に質問攻めするのだが、それに対して全て的確に答えてくれる。

 まるで、電子辞書が隣にいるみたいだ。

そして気になることがもう一つ、この女働いていないのだ。

いつ見てもいつ見ても家に居座っている。部屋にこもっている。

高田は仕事に帰って料理を作ったり家事をする。どう見ても昭和の亭主関白にしか見えない。いや、仕事をしていないならそれより酷い。

「園田さん、あの、どうしてお医者さんなのに病院行かないんですか?」問う。

「…病院?…行かないよ…?私の体は診察も治療を受ける必要がないし…」

目を合わせず答える

「いやそうじゃなくて…」

そうこうしている内にご飯と呼ぶ高田、ご飯を食べる。

「そういえば2人はなんで恋人になったんですか?女同士なのに」

園田は、チャーハンにあるにんじんを器用に避けながら話す。

「私は女が好きだから、高田は幼馴染。優しいから好きになった。」

 高田が、園田が避けたにんじんをチャーハンに戻しながら話す。

「私は別に恋愛対象が女性なわけじゃないけど、かっこいい先輩を見て、嫌いではなかったし。好きって言われて嬉しかったから…なんとなくね」

杏花が「かっこいいって…病院で働いてないじゃん?!」

高田は、苦笑いしながら答える。

「昔はね、これでも天才外科医だったのよ、腕の良いね。でも脳梗塞っていって脳の血管詰まっちゃって聞き手の左手麻痺しちゃったのちょっとだけだけどね」

 園田は、再度めげずに器用に聞き手でにんじんを避けている。本当かよと思う杏花。

「自分でリハビリ頑張ってかなり動かせるけど、今は療養中なんだよね?」

なるほどと思いながら、園田に目をやる。自分の話をされるのが好きじゃないのか「寝る」と言い捨て部屋を去る。皿にはにんじんが綺麗に残されてる。

その日の夜。夜中に目覚めてしまう杏花。

ペタペタと夜中に出かける園田を見つける。気になった杏花はこっそり跡をつける。

家のすぐそばの橋にいくと橋に身を乗り出す園田。

「……ッ!ダメッ!!!!」


慌てて胴体を捕まえて引っ張る杏花、2人揃って後ろに転倒。園田の体は恐ろしく軽く華奢に感じた。この状況に1番驚いていたのは園田だった。

「なっ何!?」

杏花に抱きしめられたまま園田は杏花の方を見る。

初めて目がちゃんとあった気がした。初めて会った時も思ったが、目は鋭いが大きく見開かれ、眉が凛々しく太めのアーチを描いている、鼻筋が通っており鼻の頭がチョンっと上がっている。唇は薄く小さい。風呂に入った後だからか、金木犀のシャンプーの匂いが鼻をかすめた。なんとも引き込まれる端正な顔立ち、ハッキリいって凄く美人だった。

「…苦しい…」園田が言う、慌てて杏花は手を離す。

「命を、粗末にしちゃダメです。飛び降りなんて…」杏花が話すと。園田は首を傾げる。

「タバコ…吸いに来ただけ…高田にバレたら怒られるから…」

「え…」杏花は顔がぼおぼおと熱くなった。顔が一瞬湧いたヤカンになったかと思った。

園田はタバコに火をつけ吸い始める。

恥ずかしさに収集がつかなくなった杏花は、橋の手すりに両腕を置き、両腕の中に顔を埋めて園田の隣に立つしかなかった。

しばらくウシガエルの鳴き声を聞いた後、

「手、本当に動かないの?箸持てるのに…」杏花は聞く。

「…」園田はタバコを咥えたまま頭を掻く。

長く煙を出した後、部屋に戻って行った。

朝起きると勉強を教えてくれるはずの園田は部屋から出てこない、部屋をこっそり覗く杏花。

そこには、ピンセットで何かを縫う園田の姿が見えた。何度も何度も何度も繰り返し行っている。そして、ある時は、目を瞑り手を変な風に動かす。

部屋の中には人体の解剖図が描かれた本が杜撰に床に広げられている。

杏花には不思議に感じた。何をしているか杏花には見当もつかず、異様な光景だが、しかしそれがなんとなく杏花には、カッコ良くも見えていたのだ。

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