第6話 楽しいタンデム

「ほら、ちゃんと腕を回してよ。危ないから」


 バイクに跨り、いざ走りそうかと言う時。ルカが俺の手を取りながら言った。


「いや、その…」


 やましい気持ちは女神に誓って一切ないが、何となく心茉知に悪い気がして躊躇っていると、ルカに両腕を取られてぐいと体を引き寄せられた。俺の上半身がぴったりとルカの背中にくっつく形になる。そのまま俺の両腕を自分の腹の前に回させた。


「はい、そのままね。出発〜」


 ルカはそう言いながらバイクを走らせ始めた。


「うぉ…!」


 思ったよりスピードを体に感じてつい声が漏れた。


「怖い?」


「いや…思ったよりスピードあってびっくりしただけ」


「バイク乗るの初めてなんだ」


「おう」


「ちゃんと捕まっててね」


 ルカがそう言ったタイミングでちょうど大通りに出た。車と違い、体全体に風を受けて走るのはかなり気持ちがいい。いつも歩いて移動している大学近辺をこのスピードで駆け抜けているのも新鮮だ。正直かなり楽しい。


 無言で走り続ける。バイクのスピードに慣れてきたあたりで、ふとルカの体に手を回していると言う事と、前世にはなかった体の柔らかさ意識してしまって何だか申し訳ない気持ちになってきた。これは決してやましい気持ちがある訳ではなくて女の体に無遠慮に触ってしまっている事に対してだ。


 行き場のない気持ちを抱えながらバイクに揺られていると、コインパーキングに駐車した。


「ここから歩いてすぐだから」


 ルカはそう言いながらヘルメットを外し、精算機の方に歩いて行った。


「タンデム楽しかった?」


「おう。なんか…スピードを体に感じてすげー楽しかった」


「ふふ、よかった。僕、君をバイクの後ろに乗せるのが夢だったんだよね」


 ルカはこちらに目をやって少し満足そうに言った。精算機での処理が終わったのか俺の方へやって来て俺の手を取って歩き出す。


 「ずっと君をバイクの後ろに乗せて、こうやって皆んなのところへ連れて行くの夢だったんだ。これで宣言通り、君が僕と結婚してくれてたら完璧だったな」


「えっと…。ごめ…」


「謝らないで。余計惨めになるから」


 ルカが俺の謝罪を遮るように言った。同時に握っている手の力も強くなる。


「全然許せないけど、酔った君の世迷言に浮かれて本気にした僕もどうかしてた。だからお互い様。君、覚えてないんでしょ?」


 ルカはこちらを振り向かず、依然として俺の手引いて歩き続けながら話を続ける。

 

「僕は君のことが前世からも好きで、今も大好きで、今日会った君の彼女の事も殺したくなるくらい憎くて羨ましかったけど…。それはもうどうしようもない事だから何も言わないで。君も謝らなくていいから。僕も昨日殴ったこと絶対謝らないし」


「…分かった」


 ルカが俺の手を引いて前を歩くせいで表情は見えない。ただ、とても泣きそうな顔をしていることだけは分かった。ルカに連れられて無言で歩いていると雑居ビルの前についた。


「この上だから」


 ルカはそう言って俺の手を引いたまま薄暗い階段を登る。2階につくとガラスのおしゃれな扉があった。扉には筆記体で『Bar Corsiy weele』と書いてありドキリとする。コルシーウィーレ…は俺が前世の生まれた町の名前だ。


「コルシーウィーレってここ…」


「そう。僕らの頼れる戦士様。バルドのやってる店。開店までは僕らの溜まり場になってることもある」


 ルカはそう言って、店のドアを開けた。













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2026年1月20日 23:00

「お前が女だったら結婚してた」って言うから! カンガルー葛木 @kangaroo-katuragi

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