第60話 核心
数刻後。
謁見ノ間の中心で佇む、ひとりの青年。秋良は、朝陽を見るなり、すっと最高礼を表した。
その隣には、いつでも動けるように凛太郎が控えている。
「そなたが秋良か」
「はい。まさか、こんな形で主上にお会いするとは」
秋良は恭しく頭を下げた。その仕草は流麗なもので、まるで貴人のよう。堂々とした佇まいは、巫女の末裔である帝に物怖じなどしていないように見えた。
出入り口には、衛士たちの険しい顔が並ぶ。そんな厳かな空気の中、朝陽はさっと口を開いた。
「無礼を許してくれ。そなた、琴の行方を知らぬか」
「それが……」
秋良は、そっと顔を伏せた。
「二人で道に迷ってしまい、俺が木こりに道を聞きに行ったのです。聞き終えて振り返ると、琴の姿がありませんでした」
「道に迷った? どこに行こうとしていたのだ」
「新たにできた楽器工房です。琴と俺は、幼い頃から楽器工房に行くのを楽しみにしていて」
「楽器工房は、ないですよ」
秋良の言葉を遮るように、どこからか飛んできた声。
後ろに控える涼人が、悔しそうに唇を噛んでいた。
「将大と共に調べました。新しい楽器工房はなく老舗の工房だけ。京で工房を開くのは老舗でも難しいですから。だからお前が言っていることは嘘だ」
「嘘ではない! 俺は本当に聞いたんだ。あいつらに!」
「あいつらとは?」
「琴を恨んでいるやつらだ! すごく性能の良い楽器を作っていると教えてくれたんだ!」
「そいつらの姿は?」
秋良の言葉を聞いた朝陽は、真偽を求めるために凛太郎を見る。
しかし、凛太郎は首を横に振った。
「天弓座の館には姿がなく、どこにも見当たりませんでした。やはり、琴をさらったのは彼らかと」
「嘘だ! あいつらはすごく良いやつで……」
「本当?」
声を荒げる秋良と、それをじっと見つめる朝陽。
その二人の間をこじ開けるように、静かな声が割り込んできた。
穏やかだけれど、どこか冷たい声。聖香師の将大だ。
「君の身体から、不自然な汗の匂いがする。朝陽の帝を騙せても、僕は騙せないよ」
「でも俺は襲ってなんかいない! 巫女に誓っても良い! 本当だ、信じてくれ」
「襲っていない……か」
その言葉を聞いた朝陽は、ふと黙り込んだ。
帝が声を発さなければ、誰も話すことはできない。そのため、重苦しい沈黙が部屋を満たす。
しばらくして、朝陽が顔を上げた。秋良を見据え、形の整った口を静かに開いた。
「では、秋良。質問を変える。襲うように仕掛けたのはそなたか?」
秋良の頬が、ぴくりと反応した。
僅かではあったが、その顔に緊張が走ったように感じられる。それを捉えた涼人は、すっと眉をひそめた。
涼人は、頭脳明晰と褒め称えられる朝陽より賢く、優秀な人材だ。彼はこの国すべての薬学を学び、その他の知識も執拗なまでに欲する。つまり、朝陽以上の頭脳を持っているのだ。
そんな彼が、秋良の反応を見て怪訝そうな顔をした。それを見た朝陽は、核心に迫っていることを確信する。秋良はきっと、何かを知っている。
「その反応、真のようだな」
「どう言うことですか?」
凛太郎が、首を傾げて問う。その隣では、秋良が無表情で朝陽を見上げていた。
「簡単なことだ。秋良は襲ってはいない。襲うように琴を誘い込み、琴を恨む彼らに仕向けた。そうだろう?」
「さぁ、どうでしょう」
秋良は、不適に微笑んだ。
月に映える草木のように、不気味で恐ろしく。
恋の琴線譜 ─虐げられていた姫は、神職として帝に召し上げられる─ nano @nanohanabatake24
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